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ボンクラライフ

【観戦記】TOKYO IDOL FESTIVAL 2022『今日は素晴らしい今日だ』

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8月5日から7日までの3日間、お台場で開催された「TOKYO IDOL FESTIVAL 2022」(以下「TIF」という)に足を運ぶ。

オンライン開催となった2020年を含め、今年で13回目の開催となったアイドルの祭典。お台場開催となった2011年が初参加の筆者は節目となる通算10度目の参加だった。個人的に久々の3日間参加に加えて、コロナ禍に開催された大規模イベントの参加ということもあったので本記事において個人的な総括をまとめていきたいと思う。

1. ボーナスステージの恩恵

3年ぶりの8月開催となったTIF。開催直前の7月31日から8月3日まで4日連続で猛暑日を記録する等、筆者はタイテよりも熱中症対策で頭がいっぱいだった。

図表1-1:東京の気温・日照時間(7月31日~8月8日)*1

しかし、表1-1のとおり、降雨しない程度に天候が崩れた5・6日は平均気温がグッと下がるボーナスステージに突入。もちろん、蒸し暑さは感じたものの、直射日光を浴びなかったことで身体への負荷は段違いだった。最終日の7日は天候も回復傾向を見せて暑さを感じたが、平均気温は27℃程度とマシな方だった。

図表1-2:8月開催時における東京の平均気温の比較(2017・18・22年)*2

「灼熱地獄からの生存戦略」から解放された2日目までは比較的快適に過ごすことができた。前週ならば酷暑、翌週ならば台風接近中だったことを踏まえると、本当に幸運だったと思う*3。アイドルたちの日頃の行いが良かったということにしよう(強引)

2.開催フォーマット変更による「TIFの夏フェス化」

こうした天候面の幸運に恵まれた本年のTIFであるが、開催フォーマット変更による変更点も大きな影響を感じた。

図表2-1:TIF2022の会場マップ*4

昨年10月開催のTIF2021に続き、コロナ禍の有観客開催となった本年もチケット購入者による有料ステージのみで構成された。一方、前年から「DREAM STAGE」「ENJOY STADIUM」が追加されたため、2019年以前のステージ数を確保することができた。

図表2-2:TIFのステージ数の推移(2016年~2022年)*5

従前の無料+有料を混在した開催方式は気軽にステージを見れること、普段は見ないユニットを見る機会を作れることから、アイドルに関心がある幅広い層の来場に繋がり、TIFの発展に寄与していたと考えることができる。しかし、今般の情勢下を踏まえると、現行の開催形式がベターな選択と筆者は考える。

そう考える理由は、昨夏のフジロック、ロック・イン・ジャパン等の大型音楽フェスを巡る騒動に代表されるように、大規模イベントに対する一般の視線が一層厳しい目で見られた経緯を知るからだ。

2021年の野外音楽イベントを巡る動向を補論に追記した『増補版 夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる 』(2022年・blueprint)において著者のレジー氏が指摘したように一過性のものながら「コロナ禍において、フェスは2020年時点での「開催されないもの」から2021年には「広くヘイトを集めるもの」へと位置づけを変えた」*6であった事実は忘れてはならない。

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日本を代表する大規模フェスと比較すれば圧倒的に規模が小さいTIFであっても、数々の問題が起こってきた歴史があった。アイドルライブ自体が一般的な音楽イベントと比較しても偏見なりヘイトを集めやすい事象を踏まえれば、仮に過去と同様の問題が起こればイベント存続が危ぶまれる致命傷にもなりかねない。それを防ぐためには、観客をコントロールする仕組みを構築する必要が求められるので、このような形式を採用せざるを得ないと考えられる。

結果論であるが、主催者発表でも、過去最多来場者となった2019年の来場者数約88,000人*7に対し、本年は約30,000人*8ということで半数以下に減っている。コロナ第7波による感染拡大に伴う自粛等も関連していると思われるが、開催フォーマットの変更による流動性の低下による影響も大きいだろう。

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一方、観客視点で述べれば、フォーマット変更は悪いことばかりではなかった。区画内のスペースを一定規模確保することで、ゆとりが生まれ、参加者がそれぞれの楽しみ方ができるようになった。また、後述する一定層を除けば、平時よりライブハウスに足を運んでいる観客が多いため、マスク着用厳守・ジャンプ禁止・声出し禁止等の厳格なルールに対する遵守されており、例年には無い当事者意識の高さを感じ取れた。

正直、筆者が鑑賞した範囲でも危うい場面も散見されたが、絵恋ちゃんが湾岸スタジオ入口で追い返されたのが主要事件?に取り上げられるくらいには平和だったと思う。(あくまで個人の感想です)

3.求められる「2つのTIF」問題への対応

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3日間のTIFを自分なりに楽しんだ筆者だが、逆に「HOT STAGE」に割り当てられた坂道等の大手グループだけを目当てに行列に並んだだけでTIFを終えた人たちもいる。

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この手の問題は以前から指摘されていたが、本年は座席配置で入場者管理も厳格だったことから、例年以上に入場制限が厳しかったことが考えられる。

例えば、来日したPSGの公開練習に4,500円払って見に行く人も、ユースの試合を見るために首都圏から青森山田高校まで遠征する人も、部外者から見れば「サッカーファン」に雑に括られてしまう。同じように、日向坂46の立つステージだけを見るためにチケットを購入して長時間並ぶ人も、筆者のように楽曲等が気になったユニットを見るために各エリアを歩きまわる人も「アイドルヲタク」と言われる。

何が言いたいのかと言えば、それぞれがTIFに求めるものは全く異なるのである。特に最終日は顕著であったが、HOT STAGE周りとその他ステージの「2つのTIF」が同時開催されているような感覚に陥ることもある。DAY2(8月6日)、自身のプロデュースユニットによる「HOT STAGE」を見れなかったファンが多数発生した事象を受けて指原さんは下記のコメントを述べている。

指原さんが言及した「野外の大きなステージ」とは、フジテレビのお台場冒険王で設置したステージを活用*9したものであり、TIF独自で設置した事例は無い*10

ただし、今回のようなトラブルが続き、大手グループに出場依頼を続けるのであれば、今回設置した2つの野外ステージよりも更に規模が大きい野外ステージを設置するしかないだろう。あるいは5日に開催された「メインステージ争奪LIVE 決勝戦」のように抽選整理券方式を採用することも考えられる。チケット代を支払った人が一方的に損を被らず、不要なヘイトを溜めない対応が求められる。

理想を言えば、列に長時間並ぶ時間を他のステージを見る時間に費やしてもらい、新しい発見を契機に繋げてほしいと思う。大手グループのブランドに親しみを持つ層ほど、こうしたフィールドを掘り下げる難しさはあると思うが、何が起こるかわからないというのは多くのアイドルファンなら理解してもらえることだろう。

4. 異なる文脈の交差点で垣間見た「鼓動」と「熱波」

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ここまでイベント全般に関する総論を述べてきたが、筆者が個人的に印象に残ったステージ等も取り上げたいと思う。ご当地アイドルをフォローしてきた筆者としては、今回のTIFで久々に地域を拠点に活動するアイドルたちの活躍が光ったことが嬉しかった。

特に「北海道から歴史を変える」を合言葉にメイン争奪LIVEで見事に優勝を果たしたタイトル未定さんは、間違いなくTIF2022のメインキャストに上り詰めた。北海道から全国に足を運んで精力的にライブを行った4人組ユニットは、アイドル戦国時代下に頭角を現した2010年代前半のロコドルたちの熱量を思い出させた。

都内ライブハウスで開催される対バンライブで実力・実績を積み上げたsituation、Ringwanderung、INUWASHI等とハイレベルなライブを展開した「メインステージ争奪LIVE」には抜群の物語性を感じたが、同日に行われたTIF初ステージとなるDREAM STAGE、SMILE GARDENのライブも見る人の心を惹きつける気持ちの引力を感じた。

彼女たちの代表曲である『鼓動』が好きになった。コール&レスポンス、声出しができない現在のライブシーンにおいて、彼女たちの想いの込められた「届けたい歌があるから」という歌詞が胸に響く。気持ちが通じあえば、こんな熱いステージを作れるのかと感銘を受けた。彼女たちのステージをTIFで見れて本当に良かったと思う。

静岡からやってきたアイドルユニット・fishbowlも大きな注目を集めた。素晴らしい楽曲製作を通じて「楽曲派」の支持を集めてきたヤマモトショウ氏が手がけるアイドルユニットとしてお披露目から1曲単位に注目されてきたが、本年に入って静岡県外ライブも解禁されたことで実際のライブで見る機会を得た者も多いだろう(筆者含)

筆者は、前週(7月31日)に清水で開催されたワンマンライブ『オランダシシガシラ』も鑑賞していたが、まだまだスキル等に発展途上の部分であると感じるものの「ライブをするのが楽しい」という気持ちを爆発させて歌って踊るエナジーに驚かされた。

都会のライブハウスとは異なる時間軸・環境で育まれたからこそ描ける成長曲線があると感じただけに、初めてのTIFを体験した刺激を取り込んでほしいと思う。

この他、漫画家・うすた京介氏が漫画担当を務める京都発・きのホ。が初参加する等、ご当地アイドルに新しい風が吹いていることを実感させられる。この他、筆者が知りうる範囲でも相当数の新たなアイドルが各地で活動を続けている。全国選抜ライブという道筋はあるものの、もう少し門戸を広げていく流れも出てくると面白いかもしれない。

おわりに:「君の夢」が叶う場所であってほしい

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本記事の最後に、自分の推しユニットの話をしたいと思う。自分が応援しているダークポップダンスアイドルユニット・クロスノエシスがTIFに初出場した。

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発表後、メンバーに感想を聞いたところ「やっと」「長かった」というコメントが多かった。クロスノエシスは結成から3年超、各メンバーのキャリアは更に年数を重ねていることを知るだけに到達できたことに対する思いがシンプルに伝わった。

「アイドル」と名乗る者が誰しも参加できる場所というわけでは無い。過去にフォローしてきたユニットでも、この舞台に立つ夢が叶わなかった者、大変な予選を勝ち抜いて上がった者の記憶は今も胸に残っており、現在進行形でTIFを目指している人たちがいることも知っている。

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クロスノエシスのTIF最初のステージとなったのは天空の舞台・SKY STAGE。最初の曲にチョイスされたのは長めのイントロに合わせ、舞台袖からメンバーが1人ずつ入ってくる『翼より』だった。

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2日目まではあまり見られなかった青空が広がる中で披露された力強くも美しい舞は「晴れ舞台」という言葉に相応しい光景だった。

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刹那性という言葉は好きではないが、現在「アイドル」と名乗る者が10年後もアイドルとして存続する可能性は極めて低い。更に述べれば、我々と同じように社会人として日常を過ごす者の割合の方が圧倒的多い。

一度しかない人生の貴重な時間をステージに立つという選択をした人たちにとって、TIFは夢が叶う場所であってほしい。クロスノエシスのステージを見終えて、その気持ちは強くなった。

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来年も、お台場でお会いしましょう。

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*1:気象庁ウェブサイト『各種データ・資料』参照して筆者作成(最終閲覧日:2022年8月13日)

*2:気象庁ウェブサイト『各種データ・資料』参照して筆者作成。2020年および2021年は10月開催のため省略(最終閲覧日:2022年8月13日)

*3:実際、本年から千葉開催となった「ロック・イン・ジャパン2022」最終日は台風の影響で開催中止となった

*4:TIF2022 公式ウェブサイト(最終閲覧日:2022年8月13日)

*5:TIFの公式ウェブサイトを参照して筆者作成(最終閲覧日:2022年8月13日)

*6:272-273頁

*7:http://www.idolfes.com/2019/tif_news/detail.html?p=tif_news20190804_01 (最終閲覧日:2022年8月13日)

*8:https://official.idolfes.com/s/tif2022/news/detail/10177?ima=1009 (最終閲覧日:2022年8月13日)

*9:2014・15・17年の3回利用。ZEPP DIVERCITYは「HEAT GARAGE」の名称で利用された

*10:2016年の「SHIP STAGE」(船の科学館の駐車場)は、セカンドステージに相当する規模のステージを設置した実績はある