ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

【観戦休題】サッカー観戦者がクロスノエシスの魅力をサッカー戦術風に考えてみた

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最近、観戦記と併せてアイドルに関する記事を再び書くようになったので、今回は筆者が足を運んでいるアイドルユニット・クロスノエシスを独自の視点で紹介できればと思う。

1.【前提】ダークポップダンスアイドルユニット・クロスノエシスとは?

クロスノエシス(以下「クロノス」という)は「ダークでダンサブルなサウンド、華やかで力強いダンスでステージを支配する」*1ことを意味する『ダークポップダンスアイドルユニット』を標榜する女性アイドルユニットである。

アイドルに限らず、観客が出来るリアクションが限られる今般のライブシーンでは、観客にじっくり見て聞くことが大半であることから、クロノスのようなパフォーマンススタイルも受け入れやすくなっていると思う。

2.【仮説】クロノスの魅力=フォーメーションの可変性?

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筆者がクロノスの出演ライブに頻繁に足を運ぶようになったのは、2021年12月21日にSpotify O-EASTで開催された4th oneman live『blank』の発表後ということで、まだまだファンとしては新参者である。

【図1】クロスノエシス『インカネーション』における【台形】⇒【斜線】の動き

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彼女たちのライブを継続的にフォローするようになって気になったことがある。それは、曲中で展開される配置=フォーメーションのパターンが非常に多いことだ。直列(縦・横)、斜線、V字型、五角形、円等、彼女たちは数分間で可変を繰り返すのである。それなりにアイドルライブを見てきた筆者であるが、クロノスのように形状変化に特化したユニットはあまり記憶に無かった。

本稿では、クロノスのパフォーマンス構造を筆者なりの視点で検証を行い、彼女たちのライブの魅力を掘り下げていきたい。ただし、素人の筆者が技術的な検証を行うのは無理があるため、検証は「パフォーマンスの特徴」と「フォーメーション構造」に絞った内容であることを最初に述べておきたい。

3.【整理】クロスノエシスの「パフォーマンスモデル」を作ってみる

まず、検証する前に、クロノスを構成する要素を整理しておきたいと思う。そこで、サッカーにおけるゲームモデルの考え方を参考に【図2】のようにクロノスのライブパフォーマンスに関するモデルを作成してみた。本稿においては『パフォーマンスモデル』と仮称して説明することとした。

【図2】クロスノエシスのパフォーマンスモデル

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冒頭に書いたように、クロノスはコンセプトに「ダークポップダンスアイドルユニット」を掲げている。この点は、大きな転換が無い限り不変の部分だろう。

次に、現在の彼女たちのステージ=主戦場は都内を中心とするライブハウスと位置付けられる。現場レベルで様々なアイドルのライブを見慣れた観客層が中心となることから、ステージ上で行われるライブパフォーマンスが比較・評価される環境でコンセプトを体現する必要がある。

コンセプトを実現する手法として「ダークでダンサブルなサウンド」「華やかで力強いダンス」を採用し、パフォーマンスを通じて「ステージを支配する」ことを目標としているものと考えられる。

このような整理を通じて考えられることは、単純に「アイドル」といっても、構成要素の違いで特徴や魅力は大きく異なるということである。筆者のようなライブ鑑賞者の好みも、各構成要素の中から、どの部分を重要視するかで変わってくる。筆者がクロノスにハマったのも、パフォーマンスにおいて「ステージを支配する」ことを目標とする高い志に惹かれたところも大きいだろう。

4.【検証】ステージを支配するための特徴・原則

パフォーマンスモデルで整理した上で、ユニットが掲げるビジョン、目標とするライブを実現するため、どのようなアプローチを行っているのかについて考察を重ねた。彼女たちの特徴として以下の4点を取り上げたいと思う。

(1)ダークなサウンドの重みを活かす力強いボーカル

(2)サウンドと歌詞を通じて拡張する楽曲の世界観

(2)各メンバーは、曲中の場面ごとの「正しい立ち位置」を把握し、逆算して動く。

(3)複雑なフォーメーション変化は「横幅の伸縮性」+「ポジションチェンジ」

(1)については、楽曲と歌唱に関する部分である。クロノスの楽曲は「ダーク」=暗さを表現する低音をベースにしつつ、ダンスパフォーマンスとも相性も良いポップなサウンドに仕上げられている。

例えば、活動初期に発表された『corss』という曲は、こうしたアプローチを色濃く表現したものと考えることができる。「重みを感じつつ、それでいて跳ねたサウンド」というのは言葉にすると矛盾するようにも感じるが、絶妙な仕上がりを見せている。

こうしたサウンドを歌い上げるため、各メンバーはソロパートは強く歌うようにしている。もちろん単に大声を出せばよいわけではなく、音程を守って強く歌う必要がある。素人ながらスタジアムで応援歌を歌ってきた筆者も、思い当たる節が多々ある(汗)

次に(2)として、力強いボーカルで歌唱を牽引する立場でもあり、作詞を手がけるAMEBAさんが綴る世界観に触れておきたい。クロノスの楽曲では、サウンドに併せるように「心の中にある闇」「生と死」といった重いテーマも取扱っている*2

AMEBAさんの作詞曲で興味深かったのは、『光芒』『幻日』という複数の楽曲で1つのテーマを描くことで物語に拡張性を持たせる試みを行ったことだ。双方の曲には「僕」という主人公がいるのであるが、『光芒』で「僕」が亡くなった「君」に記憶の中で再会するというものだが、『幻日』では「僕」と「君」が逆の立場になっている。*3

さらに、12月に開催した4thワンマンライブでは上記2曲の母体となる『幻光』という楽曲を披露している。3曲で物語性を共有するという発想も珍しいが、サウンドも既存2曲をマッシュアップさせたような仕様とする。3曲を繋げて披露したワンマンでは脳内で大いに混乱した(汗)筆者としては、こうした世界観も彼女たちの構成要素を補強するものであり、大きな魅力だと考えている。

(3)および(4)は、仮説でも取り上げたダンスパフォーマンスの部分のため、公式で取り上げたダンス配信動画を用いて書いていこうと思う。

クロノスのフォーメーションは、変化を円滑に機能させるため、立ち位置=ポジショニングの原則がかなり徹底されている。例えば、下記の図3のように、正面から見ると一列に並んでいる見えるが、よく見ると縦横をジグザグに配置している。

【図3】クロスノエシス『インカネーション』冒頭におけるメンバーの立ち位置

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各メンバーは曲中のステージ上の立ち位置を把握し、曲中に移動を繰り返す。「人」基準に動くよりは、曲中における「場所」を重視している。

若干強引かもしれないが、こうした原則は、ピッチ上の各選手は局面ごとの「正しい立ち位置」を理解し、試合中の判断・動きを正確かつ素早くすることに繋げるメソッドである「ポジショナルプレー」の理論に通ずるところがある。

【図4】クロスノエシス『インカネーション』での動き(動画:0:35~0:42)

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次に、筆者が注目していた複雑なフォーメーションの可変性であるが、この点においても立ち位置の場所が重要なポイントだと思われる。例えば、上記【図4】の可変の流れを見ると、真横のスライド、縦の前進・後退といった直線的な動きを組合せ、各メンバーが被ることなく円滑に実施できるように設計している。

また、こうした立ち位置の移動にも曲によって工夫が凝らされており、短時間で細かな可変を繰り返すときはフォーメーションの横幅をグッと狭め、中央に集積した配置を取ることもある。

【図5】クロスノエシス『VENOM』のV字型⇒円旋回の流れ(動画:冒頭~0:25)

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ライブハウスのステージには、立ち位置を補助する目印はあるが、可変が連続する時は目印と目印の間にある中間スペースに立たせ、密集した状態で移動するように設計している。場面に応じて横幅を意図的に伸縮させるのも、クロノスが採用するパフォーマンスモデルの大きなポイントと言えるだろう。

一方、大半の配置転換では、次の場所に向かう導線=ルートが確保されているが、どうしても次に移動する位置が離れており、明確な導線が確保されてないケースもある。この時は、メンバー間のタイミングと意思疎通といった部分が必要になる。どれだけシステマチックに機能する構成を設計しても、最終的にはステージ上のメンバーの技術・連携が重要なことには変わりがない。

5.【私論】魅力的なライブを作るための「精度」と「強度」

先ほど触れたポジショナルプレーの話に戻ると、各選手の理解、ポジショニングの原則が浸透すると、ピッチ上のプレーの再現性を高めることができると言われている。結果としてプレーの高い再現性は「精度」と「強度」を引き上げる手助けとなり、ピッチ上のクオリティ担保に貢献することとなる。

私見であるが、アイドルライブにも似たことを言えると思う。たしかに、同じステージ・プログラムだったとしても全く同じライブは存在しない。一方、クオリティの高いライブに定評があるユニットはライブパフォーマンスの再現性が高い。

夏以降のクロノスはライブ数という経験値に加えて、ユニット内で楽曲を構成する様々な部分に対する理解を深め、今回の検証で取り上げたような個々の技術、集団の連携を積み上げたことでユニット内の「精度」と「強度」を高められたと思う。

売り方はともかく、ステージ上におけるアイドルユニット育成の必勝メソッド、虎の巻はありそうで無いと思うが、やはり成長の上澄み液として新曲なりワンマンといった刺激を継ぎ足すことが王道であることが検証を通じて再認識することができた。

今回のような検証方法は、クロノスに限らず、同じ事務所のクマリデパートさんであったり、フォーメーションダンスを実装するアイドルユニットの大半で活用可能な見方だと思う。そして、ユニットの人数構成はもちろん、フォーメーション(例:横一列、2列配置)を含めた配置・変化の原則も指導者によって多種多様だ。

アイドルライブは本能のままに楽しむものだと思うが、理屈っぽい見方するとライブの見方も変わってくると思う。かく言う筆者もクロノスの検証を行った結果、ライブを見るクセが強くなった(汗)

本記事がクロノスというユニットの存在と、推しアイドルの楽曲・パフォーマンスの魅力を言語化する手助けになれば幸いである。最後に、特典会において筆者の細かな質問に丁寧に答えてくれたAMEBAさんに感謝の言葉を伝えたい。

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*1:クロスノエシス » ABOUT

*2:ダークポップという音楽ジャンルは明確に定義されていないが、過去に代表格として取り上げられたビリー・アイリッシュの楽曲のテーマも心の闇に寄り添うような楽曲は少なくない。

*3:『BRODY』2022年2月号(白夜書房)97頁より