本記事は「川崎ブレイブサンダース Advent Calendar 2021 - Adventar」の第8日目に寄稿するものです。昨日(12月7日)は、うにたんさんの「こんなグッズがあったらいいな|うにたん|note」でした。グッズへのこだわり、数々のアイディアが素晴らしいです。是非ご覧ください。以下、本記事本文は平時と同様に「である」調で書かせていただきます。
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1.はじめに:転換期を迎えた日本のスポーツ界
「ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる」
(映画『ムーンライトシャドウ』より)
今夏、1年の開催延期を経て、東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した。大会招致に成功した2013年以降、両大会は日本の各スポーツ競技団体の目標となり、半世紀ぶりの自国開催に向けた強化等が積極的に行われてきた。日本のメダルラッシュの背景には、地元開催によるアドバンテージも大きかったが、競技団体の継続的な強化策が結んだものも少なくはないだろう。
こうした取組について、オリパラという錦の御旗のもとでは、協賛企業を中心に多くの協力等が行われてきた。しかしながら、メガイベントが終了し、新型コロナウイルスの感染拡大にも伴う業績悪化等もあり、スポーツ支援は縮小していくことは予想される。さらに、五輪に関連してメディアに取り上げられてきたスポーツ全体の注目度も徐々に落ち着きを見せている。今まさに、日本のスポーツ界全体が大きな転換点を迎えていると考えている。
本記事では、こうした状況下におけるBリーグ、そして川崎ブレイブサンダースの目指す指針について考察を述べていきたいと思う。
2.新設が続くプロスポーツリーグ
ポスト五輪の最たる動きとして、プロ化の流れが加速している。2021年9月に女子サッカーのプロリーグとして新設された「.WEリーグ」が開幕した。既存の「なでしこリーグ」の所属チームで要件を満たしたチーム、あるいは新設されたチームが集った。大半がアマチュア契約だった選手たちが、プロサッカー選手としてピッチに立ったことは女性アスリートの世界にとって大きな前進と言えるだろう。
また、2019年に自国開催のW杯を終えたラグビー界では、企業チームを主体とするジャパンラグビートップリーグが終了し、2022年1月からプロリーグ「リーグワン」として新たな船出を迎える。W杯を前後してチーム強化、設備投資等を進んできた各チームが、プロ化という独立への道筋を選んだ。
J開幕時に比較すると参加チームの母体企業を取り巻く状況は明るいとは言えないが『参加24チームの企業の売り上げは約80兆円で日本の国内総生産(GDP)の15%』はインパクトが大きく、世界最高峰のラグビーリーグに成長する期待も高まる。
この他、東京五輪前ではあるが、卓球の「Tリーグ」(2018年)、パリ五輪の新種目としてブレイキンが採用されたことで注目が集まるストリートダンスの「Dリーグ」(2021年)も設立されるなど、各競技のプロリーグ新設が続いており、各スポーツの競技者がプロ選手として活躍する機会が増えた。
プロリーグの新設ラッシュの背景としては、国際競争力を含めた競技レベルの向上が設立の趣旨として挙げられている。例えば、リーグワンは、自国リーグを世界最高峰の舞台に高めることで、南半球および欧州の強豪国と互角以上に戦うための競技レベルのレベルアップを図ることを目的としている。
特に日本大会に向けた代表チームの強化に大きく貢献したスーパーラグビーへの参戦が2019年に終了し、ハイレベルな競技環境を維持することが求められていた。トップリーグ時代に続き、各国の代表クラスの選手の加入も続々と決まっており、世界的にも稀な国際色豊かなリーグになることが期待される。
また、女子サッカー界も、女性の社会進出に貢献する側面を強く押し出しているが、同時に欧州を中心に進む女子サッカーのプロ化に伴う各国代表チームのレベルアップの流れに乗り遅れないために協会が方向付けした施策ともいえる。
3.「先駆者」Bリーグの成功と課題
こうした各競技におけるプロ化の動きに対して、国内プロバスケットリーグとして再編成されたBリーグの成功は影響を与えているだろう。一方、Bリーグ創設の経緯は、国内リーグの統一を入口に、プロクラブの経営基盤を整備し、ライブエンタテイメントの部分を大胆に取り入れた新リーグ設立という出口に繋げた。
一方、国内の問題解決が国際大会に参加するための措置であるのだが、出口となるリーグ新設を通じた代表強化という部分にまで繋げることができなかった。知見あるコア層だけでなく、ライト層を含めた多くのバスケットファンはW杯・五輪の国際大会で戦う代表チームの世界の物差しに触れた。今後、Bリーグが目指すべきところは、他リーグ同様、世界と戦う姿勢なのではないだろうか。
とはいえ、その道のりは簡単ではないだろう。例えば、Jリーグの開幕時はグローバル化・マネー膨張化する直前だったこともあり、ジーコ等の往年のレジェンド選手に続き、レオナルド、ドゥンガ、ストイコビッチといった現役バリバリのスター選手も来日した時代があった。一方、現在のBリーグは、2000年代後半以降の日本サッカーが立たされている状況に近く、W杯・五輪で対戦した強豪国の背景にあるハイレベルな海外リーグが別世界として存在し、国内リーグがそうした世界との差をいかに埋めるかを試行錯誤する必要がある。
また、限られたリソースを競技性に割く方向性はエンタメ化が進む国内スポーツのトレンドと相対的なモノである。世界のスポーツ市場が巨大化する中、稼ぐ視点が足りないということを声高に叫んだ結果、興行的成功=儲かる仕組みが評価されてきた。
もちろん旧来の放漫経営、ジリ貧も健全とは言えず、華やかさを含めた人気も競技人口の確保には重要な要素である。しかし、プロの競技者が集うリーグである以上、競技性と興行性のバランスを保つことは大事だ。 エンタテイメント部分に傾きすぎれば、競技に対する魅力は伝えきれない。それだと多くのプロリーグが掲げる理念とは本末転倒になる。ヒト・モノ・カネが潤沢に流れ込む時代ではないからこそ、理念を維持するための両立を図るべきだと思う。
4.牽引者である川崎だからできること
前置きが相当長くなってしまったが、こうした過渡期の中での川崎ブレイブサンダースの立ち位置について考えていきたい。NPBにおける現在のトレンドを確立したDeNA体制に移行して4季目を迎え、充実したイベント等でライブエンタテイメントの魅力を発信し続けている。
また、競技面において、東地区の上位戦線を争うだけでなく、ファジーカス、篠山両選手に続き、藤井選手が日本代表チームに名を連ねた。エンタメ空間を演出し、豪華な顔ぶれで見応えのある試合を提供する川崎は、Bリーグを牽引するクラブと言えるだろう。 こうした立場だからこそ、筆者がクラブに求めていきたいのは、競技としてのバスケットボールの魅力を強く発信してほしいと思っている。
例えば、現在以上にプレビューに時間を割いて試合前の見どころ掘り下げるとか、試合後の会場を利用してアフターゲームショーを開催するとか、観戦者のリテラシー向上を促す取り組みがあっても良いのではないか。あるいは、試合後のコートを開放したふれあいバスケット教室、あるいはブースターによるミニバス大会を主催するなどの「バスケをする」「バスケットボールに触れる」機会を作ることも競技の普及に繋がるかもしれない。
一見して前段までの議論と無関係のようにも見えるが、こうした競技の「普及」は「育成」「強化」の第一歩だからだと考えるからである。特に少子高齢化が進む日本において、競技者を確保すること、更に言えば、身体能力の優れた才能ある人材を自競技に引き込むことは非常に重要な視点である。
やはり、地域にあるプロチームは、競技の身近な伝道者であってほしい。5年、10年後のバスケットボール界のためにも「バスケットボール」を売り出してほしい。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。明日(12月9日)はayame_braveさんがご執筆予定です。どんな記事が出てくるか楽しみです。