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観戦休題:川崎ブレイブサンダース「EXCITING BASKET PARK」計画に関する考察

この記事は 川崎ブレイブサンダース Advent Calendar 2018 - Adventarの第5日目に寄稿するものです。第4日目は増田林太郎さんによる「川崎ブレイブサンダースのオフェンス不調とそこからの復調を可視化する - データで観るBリーグ」でした。

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はじめに:開幕節で感じた「赤い衝撃

創設3年目を迎えたBリーグ。テレビで見た代々木の開幕戦の熱狂に誘われてバスケ観戦デビューした筆者ですが、バスケ会場が生み出す独特の雰囲気・リズムに慣れてきたと思いました。

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しかし、今季の観戦初戦となる川崎ブレイブサンダースのホーム開幕節では、初観戦に匹敵するほどの大きな衝撃を受けました。その理由は、とどろきアリーナが「似て非なる空間」へと変貌を遂げようとしていたからです。

本記事では、DeNAに運営体制を移行した新生・川崎ブレイブサンダースが掲げる“EXCITING BASKET PARK”計画に関する考察を重ねていきたいと考えております。

1.“EXCITING BASKET PARK”計画とは何か?

7月1日、川崎ブレイブサンダースの運営会社は東芝ビジネス&ライフサービス株式会社(略称TBLS)から株式会社DeNAバスケットボールに変更しました。

昨年12月に発表されたスケジュール通りではありましたが、DeNA側の情報発信が限られていたこともあり、どのようなかたちにクラブが変化するのか?は大きな関心事となりました。

DeNA体制が打ち出した「継承」と「革新」

7月4日、新運営会社による「事業戦略説明会」が開催され、新生・川崎ブレイブサンダースの概要が明らかになりました。東芝色の強いチーム名・カラーの存続、主力選手とスタッフの契約更新が伝えられたことは、ファンも安堵したのではないでしょうか。

こうした決断には、新ロゴにある「since 1950」の文字、クラブ側が制作したヒストリーVTR、あるいは会場に掲げられた東芝時代の優勝幕にも表れているように、東芝バスケ部時代からの歴史を継承するという姿勢を打ち出したものと考えることができます。

一方、コート内の部分は「継承」の姿勢を示したのに対し、コート外の部分では大きな「革新」を打ち出しました。それが、今回のテーマである“EXCITING BASKET PARK”というビジョンです。

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日常では味わえない興奮と感動を共有できる空間を作り出す取組の推進を掲げた同計画は、四面ビジョンの導入等によるアリーナ内の新たな演出、場外エリアにあるサンダーススクエアの充実化など、昨季までのスタイルを大幅に刷新し、新体制のカラーを全面に押し出したものとなりました。

- お披露目となった「Season Opening Games」

壮大なビジョンを掲げた新体制が迎えたホーム開幕節「Season Opening Games」は、力を入れたモノとなりました。

こうした取組は、後述するベイスターズのメソッド*1を踏まえたものであると推察できますが、やはり多くの人に“EXCITING BASKET PARK”を体感してほしいというのが大きな目的だったと思います。

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NPBではお馴染みとなったユニホーム配布、最大規模の会場設計で開催したのも、今回のプロモを機に初めて足を運んだ新規層はもちろん、今までのサンダースファミリーにも新体制の取組を知ってもらい、改めてファンとしての支持を獲得するために重要な位置づけだったからだと考えています。

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本記事の冒頭で筆者が触れた衝撃とは、まさに新体制側の開幕節にかける意気込みが強く感じたからでもあります。

2.DeNA体制を支えるベイスターズメソッド

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熱量の高さが際立った開幕節の取組については、後述する課題もあったものの、お披露目公演として考えれば恐るべき完成度でした。どれくらい驚いたかと言えば、欅坂46のファーストライブで平手友梨奈が放った圧倒的存在感を体感した時くらいの衝撃でした(わかりづらい)。

なぜ、新たな運営会社が高いレベルの興行運営が出来ていたのかといえば、横浜DeNAベイスターズでの経験値を還元することができる点は大きいと思います。

体制移行前の5月にスポナビに掲載された元沢社長のインタビューでは「ベイスターズのやり方を100パーセントそのままやったら、100パーセント失敗します」と述べたように、野球とバスケが地続きではないことを強調しています。そして、実際に開幕して見た印象を踏まえると、野球で得たノウハウの「イイとこ取り」を狙っている印象は受けました。

NPBボールパーク志向と球場「大魔改造」時代

空気のつくり方

空気のつくり方

 

本件を語る前に、横浜DeNAベイスターズと、近年のNPBの興行面のトレンドについて、私見を交えて簡単に触れておきたいと思います。

TBSからDeNAに移行したベイスターズは、社長に就任した池田純氏(当時)の経営改革によってハマスタが連日超満員になる人気球団へと変貌を遂げました。池田氏が行ってきた具体的な取組については、2016年に刊行された『空気のつくり方』で非常にわかりやすくまとめておりますが、試合の勝敗を除く、興行上でコントロール可能な領域に徹底的に力を注ぐことで、試合に負けても球場に訪れたことに満足してもらえるような取組を推進してきた点が非常に大きかったと思います。

こうした発想は、自然と「ボールパーク」という考え方に結びつくことになります。

横浜スタジアム 2020年までに6千席増の増築・改修工事へ | その他 | 横浜スタジアム公式サイト

ベイスターズでは、球団が掲げていたハマスタの未来予想図=ボールパークの実現に向けて球場改修に着手する段階まで到達しました。2020年春に完成予定の新たなハマスタでは、屋上テラス席やVIP向けの個室が完備されるなど、より多様な観戦スタイルを提供できるようになるそうです。

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こうしたボールパーク志向の動きは、ベイスターズに限らず、他球団でも積極的に行われています。00年代に各球場で設置が進んだエキサイティングシートは、従前の試合観戦のスタイルの延長線上にあるモノと考えられますが、近年の各球場で進んでいるバラエティシートの設置は、より多様な観戦スタイルを提供することを目的に設置しております。

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例えば、ZOZOマリンスタジアム等にあるBBQシートは団体観戦に加え、レクリエーションも楽しむことを織り込んだシートと言えるでしょう。

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最も先進的な取組を進めているのは、東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地・楽天生命パーク宮城だと思います。

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各種多様なバラエティシートに加え、外野裏に設置された「グリコスマイルパーク」のように、観覧車等のアトラクション、カフェで試合前の空いた時間を過ごすことができます。視界の先にグラウンドが見えてこなければ、野球場の一角にあるとは想像しづらい空間に筆者も唖然としておりましたが、大きな刺激受ける体験となりました。

今後、ボールパーク志向を球場設備に落とし込むかたちで、しばらく各球場の魔改造が続くと思います。一方、テラス席のように競技に影響を及ぼす設備・演出も少しずつ出てきているだけに、どこかでバランスが図られる可能性もあるのではないかと考えております。

とどろきアリーナを「パーク」に変える仕掛け

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川崎ブレイブサンダースの掲げる“EXCITING BASKET PARK”計画は、こうしたベイスターズで実践してきた一連の取組、NPBで進むボールパーク志向にインスピレーションを受けたものと考えています。

もちろん、プロバスケの本場であるNBAが提供するエンタテイメント性の高さは言うまでもありませんが、日本のスポーツ興行においても徐々に浸透しつつある動きを含めて描いたビジョンであると考えた方が自然ではないかと。

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具体的にサンダースが活用したメソッドとして挙げられるのが、オリジナルクラフトビールの導入です。

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ベイスターズの収益に大きく寄与したと言われる球団オリジナルビールを川崎バージョンで作成し、さらに野球場ではお馴染みの売り子を投入し、大きな話題を呼びました。

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また、地元・川崎出身のメンバーが所属するスチャダラパーが会場音楽を手がけ、同じく川崎出身のセク山氏がアリーナDJを務めるなど、地域のブランドを会場演出に上手く融合するという仕掛けも、ベイスターズが実践してきたブランディング手法に共通する取組だと考えております。

3.先鋭化がもたらした課題と改善

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川崎ブレイブサンダースは、新体制の掲げるビジョンを超満員に埋まったアリーナで披露することに成功しましたが、独自性を打ち出したことによる課題も垣間見ることができました。

特に、独自性を追求するための仕掛けが、観客の利便性や選手のプレーに影響を及んでしまったことについて、多くの意見を集めていた点が印象に残りました。

例えば、アリーナ飯の充実ということで、オリジナルフードを出品したのは良かったのですが、提供できる店舗が1か所しかなかったため、購入を希望する観客を捌ききれず長蛇の列となってしまいました。目玉商品のオリジナルビールも、アリーナ1階席の観客は座席にホルダーが無いため、販売・購入するタイミングが限られてしまいます。

また、スチャダラパー制作による試合用BGMが、昨季までと明らかにテンポが異なるため、選手のプレーリズムに少なからず影響を与えてしまいました。さらに、応援するファンも慣れ親しんだ応援BGMが無くなったことに戸惑い、自主的に昨季までのカワサキコールが発生するという事態も発生してしまいました。

-IT企業らしさを感じる改善の取組

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運営側が想定した事象を超える課題が噴出することは、どうしても実践してみないとわからない部分であるため、ある程度仕方がないことだと思います。大切なことは課題に対して、どのように改善していくかだと思います。

この点について、川崎はBリーグチケットを利用した観戦者向けにアンケートメールを送付し、アンケートに寄せられた意見等を集約して改善策等を公表しています。

こうしたアプローチは、サービス公開後にメンテナンス等で調整を繰り返しながら完成度を高めていくようなIT企業らしい取組であると同時に、経過を報告することで透明性を確保することにも繋がると思います。

もちろん、運営側の不備によって観客の満足度を損ね、試合の勝敗にも影響というのは出来れば避けたいと思いますが、長い目でより良い会場づくりを目指す観点では、新しいことに取組むこと、運営改善を続けることを両立してほしいと思います。

さいごに:川崎国際多摩川ラソンで垣間見た地域とのコミュニケーション

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11月18日、等々力陸上競技場をスタート地点とする川崎国際多摩川ラソンに2年ぶりに参加しました。川崎市民ランナーも多くする参加する本大会ですが、今年は川崎ブレイブサンダースとのコラボが実現。

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大会記念Tシャツがブレイブレッドに染まり、マスコットのロウル君とチアリーダーを務めるIRISも応援に駆けつけ、ランナーを応援する姿に励まされたランナーは少なくないはずです(私含む)

試合観戦を通じて、個人的に気になっていたのが、昨季までクラブが大事にしていたドメスティックさが薄まっていたことです。“EXCITING BASKET PARK”と言うビジョンのもと、地域の特性を生かしたブランディング化を進めることで洗練されたカッコいいもの提供するという方向性は理解できますが、会場BGMに市歌を利用したり、市章をユニホームに入れるようなダイレクトな表現は避けていくのは寂しさを感じていました。 

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しかしながら、マラソン会場で見せたクラブ関係者やチアの皆さんたちを見て、地域に寄り添い、共に歩もうとする姿勢に変化はないことを感じることができました。

まだまだ、このクラブが作り出す、新たな雷鳴の音は聞こえはじめたばかり。雷光が川崎市全域に広がるよう、自分も引き続き応援で貢献できればと思います。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。明日は、bravekawasakiさんによる「あの日の不思議な出会い」です。

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*1:同球団も本拠地開幕戦を『OPENING SERIES』と銘打ち大規模なプロモーションを実施している