ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

【短期連載】2007年総括:アニメ編(1)

■ 私の考える今年のテーマは「騒乱」
昨年の総括で、私は「ネット」と「聖域」の2種類の言葉を使った。
これは、ネット中心のムーブメントと劇場作品の立ち位置を表した。
それで今年を考えてみると「騒乱」という言葉を自分は使いたいと思う。


今年の『ニコニコ動画』の拡大は、ネット主体のムーブメントを巨大化した。
動画投稿サイトが実現させた「いつでもどこでも誰もが見れる」という利便性や
いわゆる『実況スレッド』をリアルタイムで見ているような、コメントシステム。


複数機能を兼ね揃えた『ニコニコ動画』は現段階で最も支持の高い視聴媒体だろう。
昨年の自分が想定していたのはyoutube等の普及だったが、それを越える影響力。
そのためか「皆がニコニコできるように」とメーカー側も歩み寄り*1を見せている。


■ 「騒乱」=ネットを主体とした視聴環境が与えたネガティブ要素
この近年における、玉石混合の作品群を深化させたと考えられる視聴環境変化。
この変化は様々な可能性も秘めているが、今回は敢えて(−)要素から触れたい。


一つは、動画サイトを使えばDVDを購入(レンタル)しなくても視聴可能なこと。
認知度が高まる反面、資本回収がDVDの売り上げに依存しているだけに大きな痛手。


ネット視聴環境のもう一つの問題は、今年の「祭り」を中心とした騒乱騒ぎである。
ストーリーの混沌さ、制作者側の姿勢、クオリティ等への意見をネットが増幅させた。
良くも悪くもムーブメントは発生したが、その視線はどこか偏っていたのではないか。


人の視聴目的に自分が口を出す権利は全くないが、私は非常に寂しいモノを感じる。
アニメーションの楽しさや面白さというのは、もっと違うベクトルにあると思うので。
そうした視点で見た作品はログには残るが、果たして個人の記憶に残るのだろうか…。


■ ネットが創り出す新たな発信力の可能性
上記のようにマイナス要素を書き連ねたが、別に私はネット視聴否定派でもない。
特にネットの情報発信力というのは、ポテンシャルははかりしえないものである。
例を挙げれば、物流におけるトレンドの流れというのは


Attention → Interest → Desire → Memory → Action


というサイクルだったのに対して、インターネットの普及によって


Attention → Interest → Serch → Action → Share


という流れを形成していると言われる。「web2.0」の世界においては
検索エンジンを使えば迅速に情報を集積することが出来るし、ブログやmixi
使って、ユーザー同士の情報共有を可能としている。そしてこのサイクルも早い。


これはアニメ市場においても適用が可能であり、結果的に動画サイトの普及は
物流における「Serch(検索)」と「Share(共有)」を兼ね揃えたこととなる。
従来の時間帯や広告による制約から、アニメーションの情報発信は一定レベルの
制約があったが、ネットならそうしたハンデを埋めていくことが可能ではないか?


■ アニメ総括・総論:テレビ作品の健闘と作品という枠組みへの拘り
では、実際に今年の作品群を振り返れば、テレビ作品の健闘が目立った年といえる。
指標としては微妙*2だが、今年の文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門でも
テレビ作品が優秀賞に3作品も選ばれている。しかし、どれもオリジナル作品だ。


ネットの普及によって情報流動性・消費スピードの加速も顕著になってきている。
一方で、制作側を取り巻く環境も含め、作品のトレンド志向も未だに顕著である。
そんな時代だからこそ、私は情報の波にも流されない「シナリオの逆襲」に期待する。


各論で書く予定だが『電脳コイル』のような新たなグランドデザインの鼓動も感じた。
グレンガラン』のように綿々と続いているダイナミズムを継承していく作品もある。
制作者側の作品にかける思いが、ユーザーに伝わってくるような物語がそこにはある。


アニメにしかできない表現があり、それで普遍的な価値観を生み出すことはできる。
そうした思いを胸に秘めつつ、今年も新旧問わずに、私は多くの作品を見てきた。
映画編でも述べましたが来年も良い作品に出会えることを願うばかりです…。


そんな私が今年入れ込んだ作品については「アニメ編(2)」で書こうと思う。

*1:例えば『日経ビジネス』(10/22号)において、角川歴彦氏は動画サイトも考慮した上で、権利者にきちんと利益が分配される仕組みを作りたいという意向を述べている

*2:特に、今年度から審査員が入れ替わったことも影響していることも考えられる