ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

スポーツドキュメンタリーのトレンドと映画『OVER TIME』

本エントリーは「川崎ブレイブサンダース Advent Calendar 2019 - Adventar」の3日目として寄稿するものです。昨日は、kanzmrswさんの実験と学習: ブレイブサンダースユースの注目度』でした。

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グラッデンと申します。バスケ観戦はまだまだ初心者ではありますが、今回もアドベントカレンダーに参加させていただきました。何卒よろしくお願いします。

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本年は、今夏に劇場公開された映画『OVER TIME 〜新生・川崎ブレイブサンダース、知られざる物語〜』(以下『OVER TIME』)について取り上げたいと思います。


本作は、川崎ブレイブサンダースの2018-19シーズンの激闘の足跡を辿るドキュメンタリー作品となります。川崎は、昨季から運営母体が東芝からDeNAに移管。丁度、横浜DeNAベイスターズでもドキュメンタリー映画『FOR REAL』シリーズを制作していたことからも、ノウハウを活かして制作されたものと考えることができると思います。

〇 映像配信サービスとスポーツドキュメンタリー 
近年、映像媒体の中心がテレビ放送からウェブ配信サービスに移行しつつあります。NetflixAmazonプライムビデオ、hulu等の配信サービス各社は、既存の映画・テレビ放送を取り扱うだけでなく、オリジナル作品に手がけるようになりました。


例えば、Netflixのオリジナル映画『ROMA/ローマ』(アルフォンソ・キュアロン監督)はアカデミー賞の3部門(外国語映画賞・監督賞・撮影賞)を受賞。映画作品だけでなく『全裸監督』(Netflix)『バチェラー・ジャパン』(Amazonプライムビデオ)といったオリジナル番組が話題を集めました。

いつでもどこでも楽しめる視聴環境、既存のテレビ番組に満足できない視聴者のニーズ等、要因は様々あると思いますが、いずれにしても、こうした活況はしばらく続くものと考えることができると思います。

-配信コンテンツとしてのスポーツドキュメンタリー


こうした配信サービス各社のオリジナルコンテンツの中には、スポーツドキュメンタリーも名を連ねていきます。

Amazonプライムは1チームに長期間密着した『ALL OR NOTHING』シリーズを制作。昨年配信されたベップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスターシティはサッカーファンの間で好評を話題になりました。


オリジナル作品の制作に特に力を入れているNetflixでは、2018年のF1シーズンを追いかけた『Formula 1: Drive to Survive』イングランドの2部リーグ・サンダーランドの波乱のシーズンを描いた『サンダーランドこそ我が人生』、最近ではアルゼンチンリーグの監督として現役復帰したディエゴ・マラドーナを描いた『マラドーナ・イン・メキシコ』など多岐に渡っています。

また、Jリーグをはじめスポーツ配信専門に扱うDAZNにおいても中継配信だけではないオリジナルコンテンツの制作には力を入れているが、本年から大型契約で中継配信が始まった読売ジャイアンツを題材にしたドキュメンタリーシリーズ『復活への道』の配信が開始。球団全面協力による密着取材や、数十年に渡る日本テレビの貴重な映像資料をふんだんに利用した精巧な作りには唸らされております。

従来であれば、テレビ媒体でしか手掛けることができなかったドキュメンタリーをネット配信会社が独自制作しているのは、シンプルにコンテンツの充実を図るということ、足元の視聴率・スポンサードの概念から外れた領域にあること、そして何よりも制作するだけの体力があることを示すものと考えることができます。

〇 ドキュメンタリーが抗えない現実
通常のドキュメンタリー作品と異なり、スポーツドキュメントは、脚色を加えて空気を作ることができますが、結果という現実に抗うことができません。「Bリーグ初の長編ドキュメンタリー作品」として銘打たれた『OVER TIME』においても、結果として厳しい現実を突きつける内容となりました。

-苦しいシーズンを経験した川崎
Bリーグ3年目を迎えた川崎ブレイブサンダースは、昨季ファイナルを戦ったアルバルク東京千葉ジェッツふなばしのいる東地区から中地区に移ったこともあり、2季ぶりの地区優勝、そしてリーグ初優勝の期待がかかるシーズンになりました。

結果は天皇杯ベスト8、リーグ戦は中地区2位(PO初戦敗退)という悔しい思いが残る結果。自分自身、実際に試合観戦をしていて、過去にない連敗、今まで勝つことができた相手に敗戦を喫する等、シーズンを通じて上手くいかない状況が続いただけに、本作の全貌が明らかになった時、戸惑い・不安の方が先行しました。「何を伝えたいのか?」という意味合いが見えてこなかったからです。

鑑賞を終えて、輝かしい成績を讃える内容ではなく、苦しいシーズンに焦点を当てた内容だったからこそ焦り・不安を含めた偽らざる感情を聞くことができたことは良かったと思います。
チームだけでなく、自身の状態も良くなかった主将・篠山竜青の言葉は、明るい口調の裏腹に打開策を見出せない不安を感じ取ることができた。プロ選手、そして主将だからこそ、何とかしなければならないという責任感が滲み出てきた内容でもありました。
また、印象に残ったのは、日本代表としても活躍するニック・ファジーカスの言葉だ。チーム状態が上がらない中、ミーティングで「自分たちの強みがわからなくなっている」と述べていた。強いチームは勝ち方を知っている、自分たちはそれを見失っていることを説いていました。彼の発言は、自分を含めた多くの川崎ブースターが感じていたことだと思います。地区優勝、リーグファイナルに進出した初年度に見せた勝負どころを抑え、勝ち切る川崎の強さが見えなくなっていたからです。
他にも、篠山竜青がシーズン前に語っていたシーズンの鍵となる戦い方、ヘッドコーチ・北卓也、アシスタントコーチ・佐藤賢治(今季からHC)が控え選手たちにかけた言葉もそうですが、観戦者・ファンが感じていることなど、当事者たちも理解し、言語化できていることに気づかされます。それでもなお、改善には時間がかかるわけだから、スポーツの世界は難しいと再認識させられました。

- 描いて欲しかったラスト
一方、こうした厳しい結果を受け止めるのであれば、個人的には地区優勝を見届け、そしてPOで惨敗した後も映して欲しかったです。意図せずしてHC代行も務めた佐藤ACがHCに就任することになり、そこまでに至る出来事を描いて欲しかったと思います。

結果が残らかなったとしても、シーズンを描くという意味では、どんなにつらい結果だったとしても、最後まで描き切って欲しかったと思います。作品の幕切れとしてはイマイチ不完全燃焼に終わったことが勿体なかったと個人的には考えます。

〇 配信形式で始まった新シリーズへの期待

期間限定公開ながら好評を博した『OVER TIME』でしたが、今季はYouTubeでの配信形式でシーズン中に開始されました。鑑賞する中で、映画の尺の都合やバランスの難しさがあると感じていただけに、先述の配信サービスのドキュメンタリー作品がそうであるように、エピソードベースで切り取れる本形式のほうが濃度の濃いモノを描けると思いますし、再編集した劇場版を制作することも視野に入れているのではないかと。

昨季とは別の意味で変革のシーズンとなった川崎だけに、新シリーズの内容も楽しみなところです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。明日はRie Hiraoさんの『来年のカレンダーを買ったら始めにすること』です。そちらも是非ご覧ください。

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