ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

観戦休題:川崎フロンターレの守備に関する考察

今回の記事は「川崎フロンターレ Advent Calendar 2017 - Adventar」の10日目として投稿します。

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〇 はじめに

本年で3度目の参加となるグラッデンと申します。過去の2回は、観客動員数やプロモーションといったピッチ外の取組に注目していましたが、今回は初めてピッチ上に視点を移しまして、川崎の守備に関する考察を書いていければと思います。書き連ねていくうちに収集がつかず「うわあ、なんだか凄いことになっちゃったぞ 」状態ではありますが、論文・レポートではなくブログ記事ということでご容赦いただければ(汗)

〇 相馬監督が挑んだハイプレス・ハイライン

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関塚・高畠の両監督が指揮を執った2004~10年の川崎は、高い個の能力を前面に押し出した攻撃的なサッカーを武器にタイトル獲得を目指したものの、頂点には届きませんでした。2011年、クラブOBでもある相馬直樹氏を新監督に招へいし、新たなスタイルの模索を図りました。

相馬氏が標榜したのは「ボールと人が連動して前に動く」というコンセプトでした。攻撃面においては、ビルドアップと人数をかけた組織的な崩し、守備面は高い位置からの連動したプレッシングの構築を進めました。

プレッシングを機能させるために取組んだのは、ディフェンスラインを高く設定してコンパクトな陣形を形成・維持させること、相手をサイドに囲い込んで人数をかけて奪い取るディティールの追求です。こうした守備面のテコ入れは開幕戦・山形戦をはじめ、シーズン前半戦は一定の成果を挙げて、上位争いにも絡んでいきました。

しかし、各チームの研究が進んだ夏場には8連敗を喫するなど失速。シーズン終盤は軌道修正を図ることになりました。川崎の守備が機能不全に陥った要因は色々と考えることができますが、ハイラインの裏を突くロングボール、相手のカウンターに対する耐久性が十分ではなかったこと、東日本大震災の影響による夏場の長い連戦等の影響で運動量を維持するのが非常に困難であったこと、連敗時に戦術的な修正や調整をする余裕がチームに無かったことが挙げられます。

鬼木監督は、トップチームのコーチとして当時の現場に携わっています。私見ではありますが、今季の戦い方を進める中で2011年の経験というのは少なからず活かされているのではないかと考えています。

〇 風間監督が打ち出した「攻守一体」の発想

2012年、相馬体制2年目を迎えた川崎は、昨年の戦いを踏まえ、実力者・ジェシを加えた守備陣がブロックを固める守備的なアプローチを採用しました。こうした戦い方は、開幕2試合をウノゼロで勝利を収める好スタートを切ったものの、今度は得点力不足に陥り、勝利から遠ざかることとなりました。こうした状況を受けて、クラブは筑波大学の監督を務めていた風間八宏氏に監督を打診、監督交代の決断を下しました。

超「個」の教科書 -風間サッカーノート-

超「個」の教科書 -風間サッカーノート-

 

風間氏は、平易ながらも特殊な言葉回しで独特のスタイルを川崎に植え付けてきました。就任前から現在の名古屋グランパスに至るまで、風間氏は個々の選手のボールを扱う技術を大切にしています。風間サッカーの特徴として捉えられるパスを繋ぐこと、ボールを保持することは一面に過ぎず、技術を駆使してゴールを奪い、勝利することである点は川崎・名古屋のサポの方は理解できるのではないでしょうか。

前置きが長くなりましたが、本ブログのテーマに視点を移すと、風間監督は攻撃と守備の局面に切り分けることなく、攻守一体の考え方を掲げてチーム作りを進めてきました。私見ではありますが、ピッチ上で発生した現象についても、こうした考え方が色濃く出ていたと考えております。攻撃で相手を圧倒するような展開では自然と被決定機も減りますが、攻撃陣の不調やミスから相手の逆襲をモロに受けて失点する場面も少なくはありませんでした。

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また、2015年に採用した3バックに代表されるように、風間さんはボール保持する時間を高め、試合の主導権を握るためのアプローチを模索しましたが、失ったボールを「奪う」手段が提示されていなかったこと、鋭いカウンターやパワープレーに対する脆さが散見されるなど、接戦の場面で粘り強さを継続して発揮できなかったことが課題として感じていたところです。

〇 2016年の風間フロンターレ

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創設20周年のタイトル奪取を掲げた2016年シーズンは、上記の課題を補うべく守備陣のテコ入れを図り、攻守にバランスを重視した布陣を模索し、高いセーブ力を誇るGK・チョン・ソンリョン、奈良・エドゥアルドの加入で強度を高めたCB、大島・ネットのダブルボランチの確立により、粘り強い試合ができるようにもなり、1stステージ優勝にあと一歩のところまでいきました。

多くの負傷者を抱えた後半戦は、苦しいやりくりの中で安定感に欠いた試合が続いたものの、過去最高の勝ち点を獲得するなど、タイトル獲得に最も迫ったシーズンになりました。この時のメンバーと試行錯誤、そして敗戦の経験が、翌年の鬼木フロンターレの布石となったことは言うまでもありません。その意味でも、濃密な1年が大きな経験になったと思います。

〇 鬼木監督が確立させた守備のスタイル

今季、監督に就任した鬼木監督は、前監督が積み上げてきたスタイルに「球際の強さ」「攻守の切り替え」の2つの要素を積み上げるべく、キャンプ時から取り組んできました。シーズン序盤は、従来の攻撃的なアプローチと新しい取組の両立に苦しみ、勝ちきれない試合が続きましたが、新加入選手のフィットとともに両輪が駆動し、結果を出し始めました。

鬼木監督の発言で印象に残っていたのは、リスク管理を「ラインアップ」「攻守の切替」「吸収」という3段階に分けて説明をしていたことです*1。今季の戦い方から考えていくと、最終ラインを上げてコンパクトな陣形を形成し、素早い攻守の切替でボール保持者にプレスをかけ、相手の突破を許した場合は相手の勢いを殺すためにカバーする、というかたちで整理することができると思います。

素早いプレスからのボール再奪取というのは、1.でも取り上げたように、相馬監督時代に志向し、失速を招く要因にもなりましたが、取組を進める準備として、篠田フィジカルコーチを招聘し、コンディショニングを含めた走り切る身体づくりを進めました。今季は例年以上に厳しい連戦を経験したシーズンとなりましたが、タフな試合を乗り切ることができたのは篠田コーチの働きによるところも大きかったと思います。

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また、柔軟性を持たせる意味で、試合状況を見てブロックを敷いて守りに入ることも度々見られました。代表的なのは、第33節・浦和戦だと思います。先制点を奪ったものの、後半は相手の猛攻を受けることとなりましたが、無理に前からプレスを仕掛けることなく、割り切った守備をすることで跳ね返すことを徹底しました。

鬼木監督は、試合の流れをよく見て、上手くいかないことも受け入れて最善の策をとるようにしてきましたが、その姿勢が最も顕著に表れたのが、このような割り切りの部分であったと思います。

そして、戦術に対応できる土台と人材が整っていたことも大きいと思います。例えば、ボールを繋ぐための「選手間の距離」を大切にしてきたことで、守備に対しても連動性が生みだす下地になったこと、谷口・奈良の両選手が高い位置を取る最終ラインをカバーできる活躍を見せたりこと、そして今季新加入の阿部・家長両選手が守備においても抜群の存在感を見せたことが挙げられます。チームが積み上げてきたスタイル・人的ソースを守備面に適用することで実現したのが、今季の守備における戦い方ではないかと考えています。

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以上です。本来は攻撃と合わせて検証すべき案件だと思いますが、敢えて川崎にける守備の変遷にフォーカスして考えてみました。いずれにしても、現在に至る川崎のサイクルは、相馬さんの挑戦があり、風間さんの刺激があり、そして両監督の下で現場を支えた鬼木監督の変化がありました。今回は触れられませんでしたが、守備面の課題というのもまだまだ多くあると思います。Jリーグ、そしてアジアを戦うために、もっと強いチームを目指すための進化に期待したいと思います。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

明日のアドベントカレンダーは、まきがめ(MAKIGAME_KF)さんの「朝日町良いとこ一度はおいでよ」です。

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