映画ネタで1本書きたいと思っていたのですが、2017年を斬るみたいな大上段のネタを書くのも嫌だったので、有楽町周辺の各映画館で鑑賞した公開規模が小規模の映画の中で印象に残った作品を何本か取り上げたいと思います。本ブログを通じて、取り上げた作品の存在を知ってもらえれば幸いです。
〇 『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
突然変異で超能力を手にした一匹狼のチンピラと、日本のアニメ『鋼鉄ジーク』が大好きな少女が登場するイタリア映画。
予告編等で「鋼鉄ジーグ」の名前を目にした時には何故?イタリア?と数々の疑問符が頭に浮かび上がりましたが、超人ヒーローの苦悩と成長を物語に織り込んだ「胸熱」直球勝負の作品。
偶然手にした能力以外は未熟なままの主人公、様々な意味の喪失を抱えるヒロイン、自分の求める欲求に貪欲なヴィランの三者に共通していたのは、欠落を埋め合わせる存在を求めていたこと。その中での苦悩や変化を丁寧に描いたダークヒーロー風のタッチも良かったと思います。
また、昨年鑑賞した、日本の魔法少女アニメをモチーフにしたスペイン映画『マジカル・ガール』もそうでしたが、題材とする日本のアニメーション作品を記号的に取り扱うのではなく、作中に潜むテーマや構図を映画の中に織り込ませており、題材に対するリスペクトを感じさせることは素直に嬉しい。やはり、タイガーマスクが人気になる国は伊達じゃなかったです。イタリアだけに。
〇『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
小さな街の人気店だったマクドナルドを帝国に変貌させた「創業者」レイ・クロックを題材にした作品。マクドナルドは米国をイメージさせる企業であると思いますが、企業が紡いだ物語もまたアメリカ企業らしいエピソードを重ねてきた点が非常に興味深かったです。
マクドナルドの店舗を1から設計し、画期的なシステムを開発したマクドナルド兄弟のような独創性を持たず、自己啓発のレコードで自分を奮い立たせるような中年セールスマン・レイが、成功を収めるために武器としていたのは「根気」、人の夢を喰って自らの野望を叶えんとする「貪欲さ」だと思います。
成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝―世界一、億万長者を生んだ男 マクドナルド創業者 (PRESIDENT BOOKS)
- 作者: レイ・A.クロック,ロバートアンダーソン,野地秩嘉,孫正義,柳井正,Ray Albert Kroc,Robert Anderson,野崎稚恵
- 出版社/メーカー: プレジデント社
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何も持ち得なかった者がチャンスをモノにして大きな成功を掴むという姿は、所謂「アメリカンドリーム」を体現するものではないかと。本作は、マクドナルド兄弟側の資料・証言を積み上げた経緯もあり、レイに対する負の感情は芽生えてしまいますが、反動のように自らの野心に邁進する強大な力に魅力を感じることも否定できません。
〇 『エルネスト もう一人のゲバラ』
日本・キューバの合作映画。タイトルにある「エルネスト」はゲバラのファーストネームであり、本作の中心人物である日系二世のボリビア人の青年・フレディ前村にゲバラが授けた名前です。
物語は医療を受けられない人々のために故郷・ボリビアからキューバの大学に留学した寡黙で真面目な青年・フレディが、入学直後に直面したキューバ危機を経験し、カストロやゲバラの言葉に触れ、そして母国・ボリビアの異変を受けて行動を起こす。
チェ・ゲバラと共に戦ったある日系二世の生涯~革命に生きた侍~
- 作者: マリー前村=ウルタード,エクトル・ソラーレス=前村,伊高浩昭,松枝愛
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彼の軌跡は、同じ20代の頃にキューバ革命に奔走した若き日のゲバラの足跡を彷彿とさせます。 上記の描写、あるいは作品冒頭に描かれるゲバラの広島訪問にも共通しますが、本作はゲバラを「革命の英雄」として描くのではなく、彼の影響を受けた人々を中心に描くことで「インフルエンサー」として側面を映し出したのは印象に残りました。
あと、そこまで話題にならなかったのですが、台詞となる現地語(スペイン語)をマスターし、民謡の歌唱も器用こなしたオダギリジョーの熱演には唸りました。