ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

8/29:『都市とスタジアム』(原宿VACANT)


■ 天野氏が攻撃的サッカートークを展開!
原宿で開催されたトークイベント『都市とスタジアム』第3回に行ってきました。同イベントは日本のスタジアムに関する課題等をゲストとともに議論する内容で、この日は、森哲也氏(『フットボール批評』編集長)、チェーザレ・ポレンギ氏(『GOAL JAPAN』編集長)、および天野春果氏(川崎フロンターレ プロモーション部部長)の3名をゲストに迎えて、国立競技場の改修に係る議論を中心に進めていきました。オフレコトークを含めて、大変トークは盛り上がり、参加して本当に面白かったです。イベントの議論の中で印象に残った点を3点ほど取り上げたいと思います。

新国立競技場のデザインと運用性

<写真1:改修前の国立競技場(本年1月撮影)>
今回のメインテーマとなった新国立競技場について、従前から、サッカーマスコミ側、あるいはクラブ側の天野さんも新国立に対する関心は低かったことは共通していました。それを前提として、3者から述べられたことは、斬新なデザインを採用することに伴う利便性に対する指摘でした。まず、運営に携わっている天野氏からは、芝の生育と日照の関係性を指摘し、日向と日陰での見え方について、大分トリニータのホーム・大分銀行ドームを取り上げて指摘していました。森氏も同様の視点で、デザイン性が先行するばかりで、スタジアム設計士の意見等が入っていたのかという意見が述べられておりました。

<写真2:大分銀行ドーム(2013年11月撮影)>
また、チューザレ氏は、少し異なるアプローチとして、スタジアムの数(+建設する経験)が少ないことから、実際に建設してみないとわからないことが多いと指摘がありました。事例として、スタディオ ジュゼッペ・メアッツァは日照の関係で芝のコンディション維持に苦労した経緯を踏まえ、ユベントススタジアムの設計等を行われたとか。
稼働率と集客率という視点
スタジアムに対する議論の中で、天野氏が述べられていたことで印象的だったのは、運営者視点の「稼働率」、観戦者(サポーター)視点の臨場感を生むための「収容率」の2つを強調された点です。
一つ目の「稼働率」について、例えば、資料として提示された新国立競技場の稼働見込は172日、このうちスポーツ大会は36日、コンサート利用は12日と見込まれているようです。天野氏は稼働率、特に平日の稼働率を高めるためには、AKB、ももクロのようなコンサートでの利用は有効であると述べつつ、毎年『a-nation』が開催される味スタを例にして、ピッチに貼られるパネルが芝を相当痛むという指摘しておりました。プロモ担当の天野氏らしい発想だったのは、大きな費用をかけてスタジアム建設をするのであれば、イベント利用しても芝を保全できるようなシステムを導入する等のコンサート利用を意識すれば良いのではないかという意見を述べられておりました。
また、稼働率の観点では、チューザレ氏が取り上げた、韓国のFCソウルの本拠地であるソウルオリンピックスタジアムの話も興味深かったです。同氏の話では、ソウルの中心部に位置するスタジアムの試合自体は1万人も集まってはいなかったが、併設する映画館、ショッピングセンター等は非常に賑わっていたらしい*1。街のど真ん中にあることを踏まえれば、周りの人たちの生活も考えていかなければならないのではないか、という意見が出ておりました。
表:2014年の等々力陸上競技場のリーグ戦観客数および集客率(筆者作成)

もう一つ、天野氏が強調していた「収容率」については、スタジアムの臨場感の重要性と絡めて発言しています。この点で、同氏が具体例として真っ先に述べられたのが、現在の等々力陸上競技場についてです。改修工事の関係で観客数が改修前から減少している等々力の平均収容率(座席数に対する観客数の割合。具体的な数字は自作の別表(=集客率)を参照)は、Jリーグ屈指の約80%です。人が人の興奮を呼ぶ臨場感を引き出すには、安心・安全・快適を第一にしながらも、少し不便と感じるくらいの「わい雑感」も必要であるという独特の表現を指摘しておりました。
チューザレ氏と森氏も天野氏の説明と前後して、逆に30〜40%の収容率であると寂しく述べておりましたが、この点は自分も観戦者として強く賛同です。丁度、天野氏が具体例として東京ヴェルディの先日の西が丘での水戸戦を取りあげておりましたが、収容率で雰囲気がガラッと変わる非常にわかりやすい例だと思います。観客数とスタジアムの規模のバランスで雰囲気は大きく変わる、大変重要な視点だと思います。

新国立競技場のビッグクラブ、小さな街の小さなスタジアム
イベント中の全然違う場面で語られたことなのですが、大都市におけるビッグクラブに関する議論と小さな町の小さなスタジアムの話が気になりました。新国立競技場の完成によって、都会のど真ん中に立派なスタジアムが出来ることから、チューザレ氏から、新国立を本拠地(=23区をホームタウン)にするビッグクラブがあれば盛り上がるのではないかという意見がありました。

Wedge (ウェッジ) 2014年 9月号 [雑誌]

Wedge (ウェッジ) 2014年 9月号 [雑誌]

丁度、先日拝読したビジネス誌『Wedge』9月号の特集「東京に300億円ビッグクラブを」でも同じ論説が展開されておりました。東京という都市のポテンシャルを鑑みれば、世界のビッグクラブに匹敵する規模のクラブが形成できるということで、600億円の算段も新国立競技場を本拠地にして満員にすることでした。活性化の一手として、注目を集めるようなビッグクラブを作るという意見は何度も出てきますが、先述の天野氏の集客率との兼ね合いもありますし、ヴェルディがそうであったように盛衰の象徴としてと扱われればリーグにとっても諸刃の剣だと思います。

(参考:『デイリーサッカーニュースFoot! Small Town FC〜スイス・キアッソ〜』)
一方、質問(スペリオル城北のサポーター)の中で1万人未満のホームスタジアムで一部リーグを戦うことになるスペインのクラブを事例にして、Jリーグのスタジアム規定に関する質問がありました。チューザレ氏の述べた「その場所に合わせたスタジアム」という回答が適切な回答だと思います。例えば、照明やシャワールーム等の設備面の整備は大切だと思いますが、地域やクラブの観客数等の規模に配慮したスタジアムを設けることは問題無いと思います。天野氏もこの点は「大事なのは収支である」ということで、スタジアム規模を基準とする現在の基準に一石を投じる意見を述べておりました。小さな街の小さなクラブの小さなスタジアムにレアルやバルサが来るというのは地域にとっては「お祭り」のような出来事ですし、そうした視点も大切ではないかと思いました。

以上です。イベントの中でチューザレ氏がサッカーファンの2大フェチはユニホームとスタジアムであると述べておりましたが、非常に濃い話が展開されたと思います。議論の展開は少し不安定ではありましたが、天野氏の攻撃的なトークにチューザレ氏や森氏が上手くアクセントを付けてくれた形で面白いイベントでした。また、次のイベントの際も時間があれば参加したいと思います。
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*1:ソウルオリンピックスタジアムについてはACL対戦時のアウェイ情報を要参照(http://www.frontale.co.jp/info/2014/0509_1.html))