■ 押井監督の考え方に改めて触れてみることの意義
『スカイ・クロラ』シンポジウム*1で押井監督の著書が出ることを知った。
例えば、インタビューとか評論本で、自分も今まで監督の声を聞くようにしていた。
とはいえ、このような様々な意見がまとまった本というのは初めてじゃないかな?
本書では、監督が自らの視点でオヤジの生き方から格差まで幅広く論じている。
読んでいて面白かったのは『自由論』と『コミュニケーション論』の二つ。
不自由の定義から始まった『自由論』の項では、押井監督は
本質的な意味での自由とは、自由に見える状態のことではなく、
自由に何ができるか、という行為のことを指すのだ。
と捉え、その好例として、ジブリの鈴木敏男氏を挙げている*2。
『コミュニケーション論』については、自らの学生時代の経験*3から始まり、
監督自身も今でいう引きこもり、コミュニケーション不全の状態であったと話している。
そこから、引きこもりが増える状態をある程度、許してしまう日本が豊かな社会である
と述べつつも、現実社会での仕事に面白さがあると語り「子どもたちは放っておけ」という。
二つの章に共通するのは、監督が仕事を通じて、現実世界に働きかけることに
面白さというものが潜んでいるということを述べている。社会にコミットする、
影響を与えることは現実的には仕事でしか達成することはできないし、さらに
仕事の中で自由に働きかけること*4ができれば、それこそ「仕事は楽しい」ものになる。
そうした考えから、監督は社会とつながることの重要性を複数の章で述べている。
そして、監督自身が「映画監督」という仕事をそうした価値観の中でこなしている。
映画を作ることで社会につながりを持つことを意識し、映画を通じて話し合うテーマ
が生まれ、必要に応じた仕事仲間を作り、仲間に支えられて作品を生み出している。
本書で監督の視点というのを改めて理解した上で『スカイ・クロラ』を見てみると、
私は、今回の映画を通じて投げかけているメッセージ性を強く感じることができた。
これから鑑賞を考えている方も解説書とともに読んでもらうといいかもしれません。