ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

『ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 「遠く」へ行きたい』


■ 「いま わたしは旅人」
先日、東京ステーションギャラリーで開催中の企画展「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 「遠く」へ行きたい」を見てきました。本展示会は、1970年代に日本国有鉄道国鉄:現在のJR)が大々的に展開した「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンを取り上げたもので、当時のキャンペーンで使用された100枚近くのポスターを中心に、数々の取組や社会的背景を振り返る展示となっています。鉄道関係には明るくないのですが、現代史や広告効果の視点も含めて見ていくと、非常に興味深い内容でした。以下、展示会で自分が関心を持った部分を簡単に振り返りたいと思います。

◯ 「モーレツからビューティフルへ」

展示会の中で印象に残ったのは「ディスカバー・ジャパン」が展開された当時の背景です。「ディスカバー・ジャパン」は大阪で開催された万国博覧会に備えて投資した交通設備の継続的活用、および、一般的に蓄積された当時の古臭い印象を刷新したい国鉄、広告を通じてポスト万博を演出したいと考えていた電通藤岡和賀夫氏の理念が結びついたキャンペーンであると紹介されています。

藤岡氏は、同キャンペーンの前から、大阪万博の広告を手掛けることで感じた違和感を「脱広告」という手法で表現しようと試みています。展示会の中でも紹介されておりますが、同氏が手がけた富士ゼロックスにおける「モーレツからビューティフル」キャンペーンは顕著であり、特に商品を宣伝するわけでもなく、「モーレツ」という高度成長1960年代からの脱却という価値観の変換を訴えかけています。この中で藤岡氏の押し出したスタイルは、その後に展開された「ディスカバー・ジャパン」にも大きく影響していると思います。
また、国鉄も「ディスカバー・ジャパン」の前にテスト版「Make Your Country 東北」を手掛けており、同社のイメージ刷新に向けた動きを早くから見せていることがわかります。同キャンペーンにおいて、横文字を広告に利用しただけで批判されたというエピソードからも当時の国鉄のイメージを窺い知れると思います。

◯ 「ディスカバー・ジャパン」の戦略とは?

キャンペーンの存在自体は現在も知られる「ディスカバー・ジャパン」ではありますが、戦略については全く知りませんでした。展示会の解説では「ディスカバー・ジャパン」には4つの特徴があるという説明がありました。

1.宣伝媒体の多様さ
2. 協賛企業による規模の大きさ
3.ターゲットの限定性
4.ビジュアルイメージの匿名性

まず、1と2は大きく関連しています。展示品でも多数紹介されておりますが「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンは、様々な媒体や宣伝物を通じて展開されています。旅を取扱った刊行物の発行をはじめ、テレビ番組の制作、駅のスタンプ台やディスカバー・ジャパンタワーといった独自媒体を作り出す等、多岐にわたります。こうした展開と並行して、媒体ごとに協賛企業を募ることにより、その協賛金でキャンペーンの規模を拡大させていました。国鉄が慢性的な赤字体質であった背景を鑑みると、大規模キャンペーンの展開は批判の対象にもなりかねないと思われますが、実際には国鉄の出費以上の協賛金でキャンペーンが賄われていたようです。
次に、3については、キャンペーンを彩ったポスタービジュアルから読み取れる特徴だと思います。同キャンペーンは、若い女性の一人旅ないし少人数の旅行をメインターゲットとしていたそうで、ポスタービジュアルもキャンペーン当時に創刊された『an・an』を意識した作りであることが当時の誌面を見ながら考えると非常にわかりやすいです。また、キャンペーン対象となるエリアも東名阪に絞って展開されているとのこと。ポスタービジュアルで展開される「都市部で暮らす女性が地域を訪れる」という構図こそ、まさにキャンペーンのターゲットであり、想定される効果なのだと考えられます。
最後に、4については、撮影地を記載していなかったり、意図的に手ぶれの写真が使用されたように、3同様にポスタービジュアルがその特徴をよく表していると思います。若年層の感性に響かせる広告であると同時に、目的地を目指す型にはまった旅行(展示では「絵葉書型旅行」という表現も)を促進するのではなく、旅人それぞれの「ディスカバーマイセルフ」(旅心)に訴えかけるという、同キャンペーンの意図がよくわかる特徴だと思います。

以上です。「広告は時代を映す鏡」という有名な言葉が示すように、広告が生まれる過程で社会の動きは密接に関係してくると思います。序盤にも書いたとおり、時代の判断を待たずして、1970年の大阪万博を高度経済成長期の日本のハイライトであり象徴であるという印象があり、その脱却に対する動きがあったということは非常に興味深かったです。
「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンが提示した「ディスカバーマイセルフ」という旅行の新たな指標は、現在も多くの人々の旅心に受け継がれているのではないかと思います。多くの旅人の玄関口でもある東京駅で、自分の旅心を大いに揺らされました。鉄道ファンに限らず、旅行好きの方々におススメです。