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ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

読了:金森喜久男『サッカー界における顧客の創造』

サッカー界における顧客の創造

サッカー界における顧客の創造

■ 顧客目線のクラブ経営を考える
本書は、ガンバ大阪の金森前社長が、プロサッカークラブの社長を務める中で積んできた経験を中心に、自らが下した判断や考えについて述べられたものです。ガンバ大阪のサポーターの方の感想および書評を契機に読んだ本ですが、他サポの自分も非常に読みやすく、勉強になる点も多い内容でした。本書を読んで気になったのは、以下の点です。

〇 顧客視点の取組に感じる「お客様大事の心」
本書で紹介されている著者・金森氏の経歴を見ると、松下電器産業(現パナソニック)の関連子会社の常務取締役、本社情報セキュリティ本部長を歴任されたそうで、普通に考えると、大企業で重責を担ってきた優れた企業人であることがわかります。一方、スポーツ畑の人材でもないことから、プロサッカークラブのトップの立場として、サッカーに対する見識が不足していた点は、サポーターからも指摘されていたのではないかと推測できます。
私見ではありますが、本書を読んでいると、上記のような履歴を持つ金森氏であるからこそ、個人というより、同氏が企業人として過ごしてきた松下電産という会社、さらに突っ込んでしまえば、同社の創業者・松下幸之助氏の考え方を垣間見たような気がします。本書の序盤で、金森氏が取り組んだ事例として、スタジアム外の「美味G横丁」展開とトイレ対策というスタジアムの環境整備を紹介していますが、創業者が「お客様第一」を掲げ、顧客目線の取組を浸透させてきた同社の社風を感じさせるエピソードであると思いました。金森氏自身が、モノづくりではなく顧客と接する営業現場で経歴を重ねてきた経験もあるのかと思いますが、そうした面を印象付ける内容だと思いました。
〇 プロサッカークラブを特別視しないこと
経営面のところで気になったのは、事業規模や事業計画に対する考え方についてです。本書では、クラブの事業規模を度々紹介しております。自分が読んでいて印象的だったのは、事業計画において、移籍金や獲得賞金といった不確定な資金は絶対に入れないという点です。金森氏の社長時代は毎年のようにブラジル人選手が引き抜かれ、億単位の移籍金が発生していたとはいえ、「取らぬ狸の皮算用」のような計画を組まないこと、非常に大切なことだと思います。この点は、金森氏が製造業の視点でご説明されておりますが、計画が各部門にもたらす影響度を考えると、不確定要素を組み込むことは、大変リスクのある選択であると理解できます。
逆に、リスクを背負って決断を下した方もいます。大分トリニータの元社長・溝端宏氏は、経営危機に陥った09年、大口でもあったマルハンのスポンサー撤退危機に瀕しながらも、ACLを目指すため、森島や前田の完全移籍のための移籍金を支払い、クラブの事業計画の規模を縮小せず、シーズンに突入してしまいました。クラブの成績の推移については、シーズンに入ってみないとわからないかもしれません。しかし、少なくとも予見された収入の落ち込みを踏まえた事業計画を策定することは可能だったと思います。

社長・溝畑宏の天国と地獄 ~大分トリニータの15年

社長・溝畑宏の天国と地獄 ~大分トリニータの15年

顧客(サポーター)視点を持つことは大切だと上記では述べましたが、その前提として、経営者の感覚との両立が必要であることは、二者の比較からも理解できます。川崎の武田社長も、企業として赤字を出すような経営をしてはならないということを日頃から述べているように、プロサッカークラブという特殊な事業形態においても、特別視することなく、一つの企業として事業に取り組むという視点は、もっと浸透してほしいと思います。
〇 「サッカー」という商品をいかに理解するのか?
最後に、金森氏の盲点と言いますか、本書を読んでいると、同氏のサッカーに対する見識は降格の遠因になってしまったと考えられます。本書の序盤に、セホーン氏招聘の背景を細かく説明しており、記述どおりの事実であれば、金森氏が仕切り直しを指示したものの、強化部長に押し切られたかたちで決定したというかたちになります。一方、本書では強化部に対する信頼を物語るエピソードも紹介されており、決定に踏み切ったのは信頼関係が一つの基準であったことも伺えます。
優れた企業人が経営に参画することは素晴らしいことですし、プロサッカークラブといえども一つの企業としての感覚を失わないことは大切だと思います。ただし、プロサッカークラブの商品は何かと言えば、やはり「サッカー」であることから、判断や決定を下す立場にいる者としては、商品に対する理解は深めてもらわねばならないと思います。あるいは、強化部と経営者を繋ぐ立場として、別途、GMのようなポストが必要なのかもしれません。


以上です。村井チェアマンも『サッカーダイジェスト』の対談で述べられておりましたが、日本のクラブは、欧州のクラブのようなパドロンシップによるクラブは少数であることからも、多くのクラブが会社として健全経営をしていくことは大切だと思います。Jリーグ発足から20年が経過して、日本の中でプロクラブとプロ選手が根付いてきましたが、プロの経営者は、まだまだこれからなのかもしれません。世界と戦っていくプロリーグを形成するにも、そうした人材が出てきてほしいと思います。
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