ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

読了:『J2白書2013』

J2白書〈2013〉

J2白書〈2013〉

■ 5冊目となる『J2白書』
J'sGoalのJ2ライター班がサイト内に交代で執筆する『J2日記』が『J2白書』として初めて出版されたのは2009年。その後も白書らしく、シーズン後に出版をされて、今年で5冊目の出版となりました。最初は書店巡りをしてようやく手にした私も、素敵な写真とライターさんたちの熱い文章の数々を見るのを毎年楽しみにしております。
J2白書―51節の熱き戦い

J2白書―51節の熱き戦い

初年度の2009年を久々に読んでみると、セレッソには香川と乾のコンビがJ2を席巻、鳥栖にはハーフナー・マイクが来て、徳島には柿谷が途中加入し、就任2年目の手倉森監督率いる仙台が初優勝で再昇格。現在の海外組や代表選手、五輪監督がこの舞台から育っていったのかと思うと、遥か昔の出来事のようにも感じますね(汗)
今年(2013年版)については、クラブ数の増加と写真欄の充実化に伴い、長めの記事や記者の対談企画といった活字部分が減少傾向にあるのは残念です。また「テーマ」ごと(例えば「ホームタウン」「イベント」等)にまとめられていた内容が、「月別」になっているので、ネタが小振りになった感は否めませんが、時系列順に内容が追えたのは読みやすかったです。個人的に好きだったのは、長崎の神崎選手が描いたヴィヴィ君の絵のトピックですね。なかなかインパクトがありました(笑)

■ 本書の「変化」について
私は本書のトピックについて、昨年ぐらいから、少し変化を感じています。1つはプレーオフの導入で昇格をかけた上位争いが幅広く注目されるようになったこと、もう1つは、J2の最大数(22クラブ)が埋まり、このカテゴリーに「残留」と「降格」の2文字が出てくるようになったことです。
前者については、昨季、新参者・長崎の躍進とともに高木監督の言葉が触れられていましたし、中位のクラブも含めて、終盤までもつれこんだことが多かったと思います。
後者については、3年前までは、仮に最下位に沈んだとしても降格が発生しなかったことで、経験を次年以降のJ2に繋げることもできた(北九州などはその好例だと思います)。ものが、一昨年からは、下位クラブは厳しい残留争いを展開することになりました。コレを受けて、一昨年(2012年)の白書では、シーズン中盤以降、下位クラブが一丸となるような団結を感じる内容も多く見られました。たしかに、JFLからJ2に昇格したクラブは、従来まで経験してきたカテゴリーと異なり、(特に最初の数年は)レベルも含めて苦戦を強いられることが多いと思います(そうした過去の経緯があったからこそ、昨年の長崎の快進撃に驚かされた部分があります)。昨季も終盤まで残留争いが続き、その結果、讃岐と鳥取による最初で最後のJFLとJ2による入れ替え戦が実施されました。シーズン総括、そして「おわりに」ところで鳥取担当のライターさんの無念さが滲んでくる内容でした。前年の町田同様、こうした悲壮感がJ2に生まれたことに重みを感じます。
他にも、昨季は、福岡や栃木の経営問題、ガンバ大阪をホームに迎えた試合で多くの観客が足を運んだ「アシノミクス」現象、レ・コン・ビン選手の来日など、日本サッカー界全体も注目したトピックも多かった年だと思います。そういった意味でも、J2に対する視線というのが熱く注がれた年であり、それもまた一つの「変化」のあった年かもしれませんね。

能田達規先生が『オーレ!』が教えてくれたこと
余談ではありますが、J2とJFL入れ替え戦も含めた残留争いを見ながら、能田達規先生の『オーレ!』のことを強く意識しました。

オーレ! 01 (BUNCH COMICS)

オーレ! 01 (BUNCH COMICS)

7年ほど前にコミックバンチで連載された本作品は、2部リーグの下位に沈む地元クラブに出向した市の職員の主人公がスタッフとしてクラブを支える作品です。物語の後半、主人公がスタッフとして働くクラブが残留争いの末、自動降格を免れてアマチュアリーグのチームとの入れ替え戦に臨みます。本作では、残留争いやクラブ経営を通じて、プロサッカークラブの在り方を考えさせてくれます。特に、私が感じたのは「プロサッカークラブ」というムーブメントです。本作では、クラブがプロ昇格した瞬間には多くの人がスタジアムに駆けつけ、ムーブメントは最高潮に達したものの、それは過去のものとして取り扱われています。それは、ムーブメントが一過性に留まり、成長させることができなかったことを示していると思います。本作は、その駆動を取り戻し、新たに命を吹き込む物語だと思います。
■ プロサッカークラブという「ムーブメント」の記録
現実のJ2を見れば、岡本や松本のようにムーブメントを拡大させるクラブも出てきていますし、一方で、経営状況の改善が見込まれるクラブ、まだまだ伸びしろのあるクラブも多くあると思います。ガンバ大阪との遭遇、下位クラブが経験した残留争い、経営危機を経て確認した人々の繋がり、ムーブメントを刺激する数多くの要素があったと思います。『J2白書』は、そうしたJ2クラブの成績だけではなく、ムーブメントの記録であるとともに、成長の軌跡なのだと思います。