ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

わたしのおススメ映画 2018

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(おそらく今年ラストの鑑賞作品は『アリー スター誕生』)

映画の感想はfilmarkに移行しておりますが、今年のまとめを本ブログで書きたいと思います。昨年の「有楽町周辺の各映画館で鑑賞した映画」という面倒なテーマ設定の反省を踏まえ、映画館で見た映画全般からおススメしたい作品を取り上げたいと思います。本ブログを通じて、取り上げた作品に関心を持っていただけますと幸いです。

〇 『タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜』

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本年鑑賞した映画の傾向として、過去の実話に基づいた物語を通じて現代に問いかける作品が非常に多かったと思います。人種差別、貧困、LGBT等といったテーマを内包させることにより社会が直面する課題にどう取り組むべきなのか、何が重要なのかを考える機会にも繋がるとともに、作品が作られた時代を投影する映画ならではの役割を担っていると考えることができると思います。


本作『タクシー運転手』も、1980年代に韓国の全羅南道で発生した光州事件を取り上げた作品です。当時の韓国は、朴正煕元大統領の暗殺後、軍部を掌握した全斗煥が実権を握り、戒厳令を背景に有力な野党指導者(後に大統領となる金泳三・金大中)を逮捕・軟禁する措置を取っていました。こうした政府の動きに反発する中で発生した大規模な反政府デモ、ならびに政府の武力行使が本作で描かれています。

文在寅大統領をはじめ、歴代の大統領が当時の政権に抗う立場であったこともあると思いますが、自国の暗黒の時代の出来事を真正面から描いていることに驚かされました。国民を守るべき軍隊が国民に銃を向けるという構図自体は人類の有史において全くなかったものではありませんが、1980年代の韓国で行われていたという事実を重く受け止めて鑑賞を進めました。

本作では、同事件の経緯を、ソウルのタクシー運転手・マンソプを通じて描いています。戒厳令下のソウルの一市民であるマンソプは、自身の業務を妨げる存在であるソウル市内のデモ活動の若者たちの存在に不満を抱き、光州に足を運んでもデモの機運とは離れた意識にいました。しかし、眼前に繰り広げられた地獄絵図を見たことで、そうした光景に対する印象が一変します。このように段階を踏んで、彼の意識の芽生えを丁寧に描かれていたのは、非常に良かったと思います。

一方、本作の取り上げたハードな内容に対して、作品全般が重々しい雰囲気にしない作りとなっているのも好感を持てました。序盤のマンソプのダメ親父ぶり、光州の人々との交流、終盤のアクションシーン等、エンタテイメント要素を満遍なく織り交ぜて作り込んでいく韓国映画の絶妙なバランスが光る素晴らしい作品でした。

〇 『ダンガル  きっと、つよくなる』

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女子レスリングのセクハラ問題が大きく話題になったタイミングで公開されたのが、実在のインドのレスリング一家を取り上げた『ダンガル』です。


以前、インドでクリケットに置き換えて『巨人の星』を制作するという話を耳にしたことがありましたが、本作は女子レスリング版『巨人の星』と言える物語。自身が果たせなかった大きな夢を娘たちに託す父親の鋭い眼光は、星一徹そのもの(汗)

近年、リアルor超次元の二極化が進む日本のスポーツ作品の現状を踏まえると、懐かしくも感じさせる「スポ根」展開ながら、音楽を駆使したハイテンポのリズム、活劇の要素を多く盛り込んだインド映画らしい演出が加味されることで娯楽度満点の構造になっており、バランスのとり方が絶妙ではありました。

特に、プロレス・格闘技観戦の経験を踏まえると、レスリングシーンの魅せ方が上手かったと思います。レスリングのマットの円形構造を駆使しながら、実際の競技では起こりえる、膠着する場面を極力を省き、UWFを彷彿とさせる回転体の動きを表現していたのが非常に良かったです。

一方、2010年代の現代を舞台にスポ根が展開されてしまうことに大きな驚きを感じていましたが、作品の背景にインド社会に対する強いメッセージ性を投げかけています。

経済成長が進み、社会的発展を遂げているインドですが、未だにカースト制度等の伝統的な価値観が根付いていることを耳にします。たしかに、父親が娘たちにレスリングを押しつけたことに疑いはありません。しかし、彼は「家事や料理を手伝い、後々に知らない相手と無理やり結婚しなければならない」古い価値観に基づく女性のあり方を強制的に引き離したことになります。

そして、父親は国際大会の大一番に臨む娘に対して「男性ではなし得なかった栄光を女性が国にもたらすこと」の意義を説きます。このメッセージこそ、インド社会に問いかける隠されたテーマであったと思います。そういう意味では、古臭いように見えて、今作られたことに意味のある作品であったと思います。 

〇 『search/サーチ

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行方不明になった娘と捜索する父親という非常にシンプルな構造を、拡張し続けるネット空間を舞台にすることで今までに見たことがない斬新な内容に仕上げた作品。

全編がPC画面の中で展開される斬新な絵の作りは、Facebook創設を描いた『ソーシャルネットワーク』から約10年が経過した現在の「繋がり方」が様々なかたちで変化したことを強く印象付けられました。情報アクセスにおけるスピード感を上手く描いており、ネット空間が抱える莫大な情報量の可視化の役割も果たしていたと思いました。

そして、ネット空間が抱える莫大な情報量とアクセスに対するスピード感をサスペンスの仕掛けとして巧みに組み込んだ点が素晴らしかった。捜査の過程で父親が手にする(=鑑賞者に提示される)数々の情報をパッチワークのように繋ぎ合わせることで真相に迫ろうとする。しかし、そうした過程の中に発信側のフェイクもあれば、受け手の思い込みも介在するのが非常にリアルに感じました。

また、サスペンスのシリアスさだけではなく、デジタルネイティブ世代を象徴する子供の成長とともにOS、アプリケーションの変化を見て取れるのはデジタル年表に感じたり、国境を超えた「ネットあるある」な小ネタがあったり、ヘビーなネットユーザーには相当楽しめるような作品だったと思います。

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