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ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

読了:結城麻里『フランスの育成はなぜ欧州各国にコピーされるのか』

サッカー

■ 育成大国・フランスを支えるシステムとは?
育成大国と言われるフランスの育成システムに注目した本書ですが、「サッカーと言えば東邦出版」の名のとおり、内容の濃い本でした。育成等に関心のあるサッカーファンには必読の一冊だと思います。本書で気になった点を書きたいと思いますが、その前に自分が本書に関心を持った理由について書きたいと思います。
○ 自分が本書に関心を持った理由
<W杯王者・ドイツの育成プロジェクトでも注目されたフランスの制度>
先のブラジルW杯では、ドイツが西ドイツ時代の90年大会以来の優勝を果たしました。一時期は戦術の硬直化や主力の高齢化等の問題を抱えていたドイツでしたが、00年頃から協会主導で中長期的な改革プロジェクトを実施してきました。今回の優勝は、こうした継続的な強化が実を結んだものと考えることができます。
強化プロジェクトの柱となったのが育成環境の改革でした。『エル・ゴラッソ』の特集記事*1によれば、元・浦和レッズ監督であり、今回のW杯ではカメルーン代表を率いたホルガー・フィンケ氏も同プロジェクトに参画しており、育成センター設立や移民の受け入れに大きく携わったとされています。フィンケ氏によれば、システム構築に当たっては各国の制度を参考にしたそうですが、特に重視したのはフランスだったと述べております。ドイツでは、協会のトレーニングセンター(シュツゥットプンクト・トレーニング)を整備し、地域のクラブと協会の二人三脚で育成を行い、ドイツ代表選手に送り出すという循環を構築しております*2が、これもまたフランスの育成センターの制度をドイツ流に咀嚼し、提案したものがベースになっているとのことです。そうした意味では、ドイツの復活・躍進の下地とも言えるのではないかと思い、本書に興味を持ちました。
<日本との繋がりもあるフランスの制度>
また、日本でも海外の育成環境に対する関心は高いと思いますが、国内外で活躍する選手を輩出する育成大国・フランスに関しては、スペインやドイツほど注目されていないのではないかと思います。一方、JFA日本サッカー協会)が立ち上げたJFAアカデミーは、フランスのINF(全国フットボール研究学院)を参考にしており、INF元校長のクロード・デュソー氏もテクニカルアドバイザーとして参画しておりました。そういった意味では。日本にも繋がりのあるということで、関心がありました。
○ 本書を読んで興味深かった点
<育成センターの役割について>
本書によれば、フランスの育成システムを大枠で見ると、プレフォルマシオン(本書では「12〜13歳から14〜15歳くらいまでの年齢層」の育成)は、連盟が運営するINFクレールフォンテーヌ(フランスフットボールの総本山に置かれた施設)をはじめとする各地の前育成センターが中心的な役割を担い、育成センターを卒業した子供たちのフォルマシソン(本書では「15〜16歳から17〜18歳くらいまでの年齢層」の育成)は各プロクラブの育成センターに委ねられることになる。その意味では、国(協会)⇒クラブの育成の役割分担が出来ていることがわかります。
ただし、この点を見ていくと、クラブの育成環境が整っていなかった1970年代は、INFヴィジーという育成年代を対象とする施設を設けており、70年代後半にプロクラブに育成センターの整備を義務付けたことで整備が進んだことから、INFはその対象を12歳以降の前育成の年代に移行したという経緯があります。協会内に技術部門を統括する機構・DTN(全国テクニカルディレクション)を設立したのが1970年ということを考えると、10年単位での改革と環境整備を行った成果とも言えます。そうした意味では、本書でも触れられる表現ではありませんが、ワインのように熟成を経て積み重ねられた制度だとわかります。
<テクニック、フィジカル、タクティクスの関係性>
また、日本でも同じような議論を耳にしますが「テクニックか?フィジカルか?」という議論はフランスでもあるようです。やはり、前育成年代の子供たちを預かる、INFクレールフォンテーヌでは、テクニック最優先のトレーニングを行っているとのこと。しかし、その根底にあるのは「総合的な育成政策」であり、テクニック向上をベースに子供たちの成長に合わせたトレーニングを課しているらしい。さらに、INFの指導者のインタビューで熱を入れてコメントしていたのが、「タクティクスを先に教えてはいけない」ということです。タクティクスを実現するための判断をするにしても、それは技術が無ければできない、逆に技術があればタクティクスを磨くことができるということ。そのため、1年目はテクニック向上に注力し、学年が上がる中で、タクティックス、公式戦参加するという段階を踏ませているようです。なお、細かいところですが、現在、各生徒はINFのチームが無いため、元所属あるいは新たに受け入れてもらった街クラブに参加して公式戦に出る機会を得るということです。
<18歳以降の育成という課題>
上記のとおり12歳以上の育成について連盟、16歳以上の育成は各クラブが中心的な役割を果たして人材を育んでいるフランスですが、一方で、5章で記されている、ポストフォルマシオン(18歳以降の年齢層の育成)については課題があることにも気付かされます。本書では、先日、代表引退を発表したフランク・リベリーの経歴に触れておりますが、素行の問題や体格の問題で育成センターを出ることになった選手の才能を見出すシステムが、フランスにおいても発展途上であるということです。リベリーの場合は、育成センターの落伍者のレッテルを張らず3部のチームがチャンスを与えたことで飛躍できました。しかし、仮にチャンスをもらえなかったらと考えたら、バイエルンやフランス代表で活躍する選手が表舞台に出てこなかったとも言えます。
一方、連盟では、プロ予備軍となる19歳以下を対象とするガンバルディアカップ*3を主催しており、選手の発掘の機会としているようです。
結果を残さねばならないプロクラブが育成の主導となる年代の後だけに、連盟と協力しながら、クラブ側が選手に寄り添っていく体制を整えていくのかが鍵になりそうです。
<指導者・監督の育成という視点>
育成というと選手育成を考えがちなのですが、6章で触れられた指導者育成のプログラム紹介も新鮮でした。欧州のレギュレーションよりも厳しいライセンス制度を設けている点もそうですが、上のカテゴリーの監督資格が国家資格になっているという点には驚かされました。ちなみに、ジダンが取得した監督資格のレベルでは、まだ3部までしか指揮できないということで、今後のジダンの動向を追っていくうえで、押さえておくと理解が深まるかもしれません。
また、育成センターの責任者等の育成部門の専門家に対する資格(BEEF)を別途設けており、それを監督経験者等の育成専門家集団が講師を務めることになっており、育成の専門家を育てる地盤を設けている点は興味深かったです。

以上です。正直、書きたいことや触れたいことはたくさんあるのですが、とりあえず4点について。基本的に参考になる点を中心触れておりましたが、例えば、終章で語られた「最前線」でも語られるように「暗黒の10年」と言われた時期の混乱やコンペティション過多の是正といった現場での模索が続いているようです。しかし、近年のアザール等がそうであるように、フランス発の世界的なタレントは次々と生まれていますし、丸呑みにしてはダメでも、体系的に取り入れて欲しい部分はあります。冒頭にも書きましたが、育成関係に関心のある方には、おススメの1冊です。
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*1:2010年10月、2014年7月

*2:『ヨーロッパ・サッカー 育成最前線』(ベースボールマガジン社・2011年4月)70頁

*3:日本で言うと街クラブを含めて参加する「クラブユースサッカー選手権」の通年版というイメージでしょうか