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ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

『her 世界でひとつの彼女』


■ 「住む世界も生きる場所も違う二人」
昨日から日本公開の映画『her 世界でひとつの彼女』を見てきました。町山智浩さんの映画コラムで紹介されてから、日本公開を楽しみにしていた作品です(笑)変化球な恋愛映画として、または近未来を描いたSF的な見方も出来る興味深い映画でした。映画を見た感想等は以下の通りです。

◯ あらすじ

舞台は近未来のロサンゼルス。主人公・セオドアは、手紙の代筆を行うライターの仕事を行っている。幼馴染であり、初恋の相手でもある奥さんとは離婚調停中であるが、彼女との思い出を引きずっていることから、人との距離を置いている。そんな彼が、ある日、AI(人工知能)型OSの広告を目にする。興味を持った彼が、早速OSをインストールし、複数の質問に答えた後、聞こえてきたのは『サマンサ』と名乗る女性の声であった。

◯リアルとヴァーチャルの狭間
私が本作を見る中で気になったのは、リアルとヴァーチャルの狭間で思い悩むセオドアが、どのような結論=出口を見出すかという点でした。流石にネタバレになるので、結論は書きませんが、作品の中での描写にあった「目に見えない要素」の描き方が物語を読み進めていく上でヒントになると思います。
私見ですが、OSであるサマンサの存在はもちろん、セオドアとサマンサの会話、音声認識で正確にテキスト化される描写、あるいは関係性とともに変化する空気感など、本作では目には見えない要素(字幕だと文字が浮かんできますが)の存在感が際立ちました。接触することができない関係性を描く上では、作り手側も重要視していた部分だと思いますし、非常に良かったと思います。
そうした点も含めて、サマンサ役として「声の出演」となったスカーレット・ヨハンソンの演技も素晴らしかったです。アクションも表情もないサマンサの感情の揺らぎを、声のみで表現する必要があるのですが、大変良かったです。元・声優ファンの自分としては、ツボなポイントでした。それだけに、ソフト化された際に吹替版で見てみたくなる内容でもあります。普段以上に声優さん(作品を照らし合わせると佐古真弓さんが濃厚?)の演技に注目したいところです。

◯余談:『her』は米国版『A・Iが止まらない!』か?
感想は以上です。ココから先の内容は余談です。パンフレットの中では「Siriが生まれる前に発想した革新的なアイディア」とありましたが、日本では、リアルとヴァーチャルの枠を超えた恋愛を描く作品自体は昔から出ていると思いますので、個人的には「なじみ」のあるテーマにも感じました。

例えば、コンピューターではありませんが、80年代末から90年初頭には、ビデオテープから出てきたビデオガールと少年の交流を描いた桂正和先生の『電影少女』が思い浮かびます。
A・Iが止まらない! (1) (講談社コミックスデラックス (1253))

A・Iが止まらない! (1) (講談社コミックスデラックス (1253))

ただし、私が本作を見る前に真っ先に思いついたのは、赤松健氏先生の『A・Iが止まらない!』です。『her』の作品紹介で人間のように会話するAIとの交流と聞いて、即座にて「『AI止ま』だ、これは!」と考えてしまった自分もアレですが、スパイク・ジョーンズ監督が本作を読んでいた説を語りたくなる勢いです(笑)なお、なお、AIとの交流という点では、ヴァーチャル世界を中心に描いておりますが、花沢健吾先生の『ルサンチマン』なんかも当てはまると思います。現実世界と虚構世界に対する考え方の変化については、セオドアは同作品の主人公・拓郎に近いかもと思ったりしました。
ちょびっツ 1 (ヤングマガジンコミックス)

ちょびっツ 1 (ヤングマガジンコミックス)

他には、『her』作中でセオドアは、サマンサをモバイルにインストールして会話する、あるいは出歩くというシーンが出てきますが、持ち運ぶという要素ではCLAMPの『ちょびっツ』に通ずるものがあります。同作品はパソコンが人型で普及している世界を描いていますが、モバイル型端末(=すもも)も登場しています。世界観としては、特定のだれかというよりは、広く普及した近未来を描いていることからも『ちょびっツ』的な要素が近いのではと感じたりしました(たぶん、自分くらいだろう)。

以上の作品と『her』の共通点は、近未来が舞台であること、女性との付き合いが苦手な人間が主人公であるということでしょうか。一方、相違点であり、『her』の作品としての革新性はまさにそこだと思うのですが、「目に見えない存在」との交流であるという点です。上記作品はいずれも実体化、あるいは可視化された存在として、同じ空間で対峙することで感情が芽生えます。しかし、サマンサは(本作である「試み」がなされますが)目に見ることが出来ないのです。そうした関係性の中で感情が芽生え、変化していくことを見事に描いているのですから、改めて、見応えがあると感じるところです。そうした意味では、『her』は一歩進んだ作品なのかもしれません。
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