ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

『夕空のクライフイズム』等から考える、戦術視点のサッカー漫画

■ サッカー漫画の新トレンド?
W杯開催も近づき、雑誌等で特集が取り上げられたり、コミックでも新連載がスタート等、サッカーに対する視線も次第に熱くなってくると思います。そんな中で、個人的に気になってることがありまして、それは戦術視点のサッカー漫画がジワリと増えてるのではないかということです。今回、そうした気づきから、自分の面白いと思った作品をいくつか紹介していきたいと思います。

○ 将棋×サッカーの異色作『ナリキン!』が見せた戦術視点という新境地

ナリキン! 01 (少年チャンピオン・コミックス)

ナリキン! 01 (少年チャンピオン・コミックス)

近年、戦術面を押し出したサッカー漫画として、最初に鈴木大四郎先生の『ナリキン!』を紹介したいです。
本作は若きプロ棋士の主人公が、地元のプロサッカークラブに入団し、将棋の戦術をサッカーに応用した「オールラウンドサッカー」に取り組むというもので、従来のサッカー漫画とは異なる勝負の駆け引きが展開され、サッカーと将棋の双方の側面から楽しめる作品です。
将棋でサッカーが面白くなる本―3日で理解できる将棋戦法入門

将棋でサッカーが面白くなる本―3日で理解できる将棋戦法入門

また、別途、将棋目線でサッカーを見るということで、将棋サッカーライターとして知られる(笑)、いしかわごう氏が手掛けた書籍『将棋でサッカーが面白くなる本』も発売されており、本書の副読本としても楽しめます。将棋について理解を深めれば、さらに楽しめる作品と言えるのではないかと。将棋という別ジャンルからのアプローチながらも、従来のプレイヤーやクラブという目線とは異なる、戦術というサッカーの醍醐味を引き出したという意味では、新境地に踏み出した作品と言えると思います。

○ 炸裂するサカヲタ魂『夕空のクライフイズム

夕空のクライフイズム 1 (ビッグコミックス)

夕空のクライフイズム 1 (ビッグコミックス)

今回、このトピックを書こうと思ったのは、手原和憲先生の『夕空のクライフイズム』が発売されたところが大きいです。現在、連載中『スピリッツ』の中でも、自分のお気に入りの作品です。
本作は、神奈川県の私立高校を舞台に、従来の勝負に拘ったサッカーから、「美しく散る」引退試合を目指すという大胆な目標からヨハン・クライフのサッカースタイルを導入しようと試みる作品です。クライフイズムの導入というアプローチから物語を展開するという、まさに戦術視点に大きく舵を切った作品と言えます。
また、勝利至上主義のサッカーから華麗なサッカーへの転身という、学生スポーツという土俵からも大胆にも感じる内容ではありますが、そこはシリアスにというよりはギャグ的なテイストを出しながら描いており、抵抗なく、わかりやすく伝えようとしています。とは言っても、理論的な部分の核はキッチリと伝えようとしていて、硬軟使い分けているのではないかと思います。
あと、何よりも、著者の溢れるばかりのサッカー愛というかサカヲタぶりが、よく伝わる内容です。国内外に問わず、その見識は単行本一冊に滲んできます。この点でもサッカー好きとしてはおススメの作品です。

○ サッカー版『戦国自衛隊』でもある『キックバック』に注目
ヤングアニマルDensi
最後にウェブ連載作品ですが、異色のサッカー作品『キックバック』を紹介したいです。
本作は、元プロ選手を父親にもサカヲタ(運動はダメ)の主人公が、ひょんなことから父親の体に憑依した状態で20年前の国内リーグがスタートした時代にタイムスリップ。そして、父親の身体と自らのサカヲタ知識を駆使して、20年前の日本でプレイする世界のレジェンドプレイヤー相手に、2010年代の戦術を実践しようと試みるもの。まるで『戦国自衛隊』のような、ifの物語が戦術目線で展開されているのが面白いです。
また、現在の10代が知り得ないJリーグ(本作ではNリーグ)始まった頃の熱狂を描いていたり、彼の影響で2000年代のシステムが90年代に登場という史実とのパラドックスが発生するなど、タイムリーブのジャンルならではの面白さが展開されており、今後の物語の展開も楽しみな作品です。


以上です。90年代にはプロリーグでの活躍や海外への挑戦といった視点が入るようになり、2000年代に入ってからクラブ、監督といった新たな視点を切り開くようになるという多様性がさらに広かったと思います。もちろん、現在連載中の新作でも従来の人物視点の作品もあれば、『GIANT KILLING』のように監督からクラブ、選手と多角的に描いた作品もあります。せっかくのW杯イヤー、大会までは国内外のリーグ戦がお休みの時期もありますので、古今のサッカー漫画を読んで見るのは如何でしょうか?