ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

読了:高野陽太郎『「集団主義」という錯覚』

「集団主義」という錯覚―日本人論の思い違いとその由来


■ 本当に日本人は集団主義なのか?
本書は「日本人は集団主義で、欧米人は個人主義である」という通説に対して、
その正当性の検証を通じて、バイアスと状況が限定された論説であるかを述べる。


これは面白かった。学術書としても読みやすいし、論文を書く学生にも勉強になる。
特に、自分たちも普遍的に考えがちな通説なだけに、正当性について見落としがち。
筆者の解説にあったが、たしかに『菊と刀』なんかは分析として甘すぎる内容だし。
エピソードの説得力と戦時中の特殊な状況の影響が、通説を補強しているのが大きい。


物事を判断する上で、状況とバイアスの影響を視点に入れることは大切なことだ。
普段の会話などもそうだと思うが、根拠のない先入観や印象で議論を突き進める
パターンが多いと思う。学説等も、そうしたバイアスをはずせているかどうかが
内容の判断では大きいだろうか。そう述べる私自身、反省すべき点が多いのだが。


また、普段から論文や専門書にも目を通したことのない人でも普通に読めると思う。
本書のテーマが非常に身近なこと、筆者が読者のレベルに応じて読むべき部分を提示
してくれていることなど、表紙のデザインを除いて(笑)、読みやすくする工夫が
されている。私もこうした分野は素人だったが、スラスラ読めたのは良かったり。


文:Y.Ishii