ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

アフターレポ:NOAH『Autumn Navigation '08』最終戦


(2年ぶりの対決は初対決かと思わせるほどの新鮮さにあふれた展開に)


■ 第7試合:丸藤正道−KENTA(世界ジュニア王座・GHCジュニア王座選手権)
カードの発表から当日まで、少しずつ理想的な展開に形はまとまった一戦。
大阪大会でのアピールがあったとはいえ、唐突に決まった1戦がダブルタイトル戦
へと変わり、そして史上初のジュニア王座によるメインイベントへの昇格が達成。


感想は、2年前に僕が見たかった「丸藤プロレス」が見れたという満足感だ。
ノアは90年代の全日本プロレスで三沢さん達が積み重ねた「四天王プロレス」を
支持してきたファン層が基盤を形成していて、ジュニアも含めて大枠では流れを
引き継いできたことで支持される一方、新世代が世代超えをできずにいたことだ。


そこで、私はハイスパートレスリングと全日本の受身のプロレスを祖先とした、
垂直落下や断崖式、雪崩式といった危険技の連発という四天王スタイルからの
脱却のカギを当時は「ベーシック」と「切り返し」と「閃き」と考えていたのだ。
そして、3要素を満たすのが丸藤選手であり、彼の「丸藤プロレス」だと思った。


KENTA戦、田上戦、小橋戦、秋山戦、06年の丸藤は新しい形への模索を感じた。
しかしながら、10月のKENTA戦は年間ベストバウトを獲得したものの、結局は
四天王的な危険技連発への回帰となってしまい、私は残念に思った。それでも私は、
ジュニアでヘビー級王者(当時)としてファンに認めてもらうための通過点だと
思い、状況を飲み込んだ。だが、私の抱いた王者像は三沢戦敗退で消えてしまう。


07年以降の丸藤選手は積極的に外団体に出撃し、団体内ではリーグ戦や王座戦
に絡み続けるなど、見聞を広める一方で存在をキープしていたように思えたりした。
米国やメキシコ遠征、飲伏選手とのタッグ、村上一成戦、大阪プロレスにも出撃した。
三沢さんとの再戦には敗れるもタッグ王座を獲得、ヘビー級で1年間戦い続けてきた。


そして、世界ジュニア王座獲得でシングル王者になったこと、武藤全日本での参戦も
あるレベルでは義務付けられるようになったことで、丸藤正道という選手のプロレス
が10周年となる今年、一つの成熟段階を迎えようとしているのでは、と私は考えたり。
好敵手・KENTAとの今回の試合はそのエポックメイキングとなる試合だったと思う。


60分という試合時間においても、丸藤選手の組み立て方がしっかりできていた。
見事だと思ったのが中盤における変形ヘッドロックによる仕掛け方は、古典的な技に
彼なりのアレンジとタイミングでベーシックでありながら新鮮な見せ方を与えてくれた。
グラウンドに限らず、技をそれこそ雪崩のように連発をせずとも、流れの中でアクセントを
しっかりと付けて出していくことで、メリハリを作ったり。ここが一番成熟した部分だ。


「流れ」という試合における空間の意識が長時間の試合に良い緊張感を与えてくれた。
流れの中で閃きがあり、切り返しがある。そして、その中にベーシックな攻防もまた
隠されている。80年代以前のオーソドックスなプロレスと90年代以降の大技バブルの
プロレスの折衷がそこにはあった。それがまさに「進化」というものではないだろうか。


ドローだったのに満足だった試合というのは、映像資料で見る限りでは馬場さんの試合
なんかはそうだった。ジャック・ブリスコ相手にNWA王者での防衛戦での引分防衛は、
最後は必殺技での攻防があるが、それに至るまでは基本的な技による攻防あること
で一つ一つの動きに緊張感があり、1・2本目に至るまでに大技も見え隠れしてくる。


そのような「重厚さ」が今回の試合の中で作ることができるようになった丸藤選手は、
まさにシングルプレイヤーとして大きく成長した証拠であり、誰もが納得する王者に
なれると私は信じるようになった。彼の進化はまだ止まらないし、止めてはいけない。


文:Y.Ishii