ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

読了:木村元彦『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』

誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡


■ ピクシー、改めミスター・ストイコビッチの軌跡をたどる
オシムの言葉 (集英社文庫)』の木村元彦氏の最初の著書。
本作で主役となるのは旧ユーゴスラビア代表として90年のイタリアW杯で
世界を席巻し、その後の国家の分裂を乗り切った、再び98年に望もうと
するドラガン・ストイコビッチ(現・名古屋グランパス監督)である。


80年代後半、旧ユーゴスラビアはサッカーの強豪国として欧州、世界に台頭する。
ストイコビッチは早くから才能を開花させ、ワールドカップでの輝きを見せる。
若きフットボーラーのさらなる飛躍が期待された彼だが、ケガと国家の分裂に
より大きな停滞が90年代の前半であった。そんな中で、彼は極東の国にきた。


発足当初のJは、ジーコリトバルスキーといった往年の名選手たちが来日。
しかし、ストイコビッチはモノが違った。国家の分裂と度重なるケガの影響
などで欧州から環境を変えるために日本に向かうことを決意しただけであり、
日本という異国の環境の中でストイコビッチは次第に輝きを取り戻していく。


そして、国際舞台に復帰したストイコビッチを中心とした新ユーゴ代表チーム
はワールドカップを目指すことになるが、同じ予選にはかつては同じ国家だった
クロアチア代表も。分裂した国家、夢舞台への復帰、そして誇りを胸に彼は闘う。


オシムの言葉』同様に、本書最大の特徴はフットボールシーンを通じて、
ユーゴ紛争という問題を取り上げていることである。当時、小学生の時に
テレビ報道を通じて見ていた記憶があるが、その後もあの出来事について
詳しく知ることができなかった。本書の後に発売された『悪者見参』では
ユーゴのサッカーシーンに焦点をあてていることもあり、現在読んでいる。


内容を踏まえて印象に残ったのは、ハードカバー版の裏表紙の写真の姿だ。
仲間と抱き合うストイコビッチがチ泣きながらチームメイトのジャージを
引っ張っている。これは6章のW杯予選の同点ゴールをシーンのようだ。


日本と欧州を往復しながら調整を続け、選ばれたものの誇りにかけてチーム
に還元しようと決意したストイコビッチ。チームメイトのゴールを喜ぶ姿は
そうした強い思いの現れだ。たぶん、近年のワールドカップ予選の風景では
ここまでの思いを持って臨んだ選手やチームというのはなかなか見れない


現在、ピクシーはミスターとしてグランパスを率いて優勝戦線を争っている。
もちろん、我々は日本の雄姿を胸に残しているけども、私達が知らなかった
ストイコビッチの軌跡を改めて知ることができたことは、敵将でありながら
も抱くリスペクトが一段と増した。ミスターのグランパスと来年もいい試合を。


文:Y.Ishii@今日一日の書籍代がとんでもないことに