ぶらり人生途中下車の旅

ボンクラライフ

読了:鈴木敏夫『仕事道楽 スタジオジブリの現場』

仕事道楽―スタジオジブリの現場 (岩波新書)


■ 編集者型プロデューサー・鈴木敏夫氏から見るジブリの現場とは?
押井監督が『凡人として生きるということ』のなかで

ハウルの動く城』のように何でもかんでも背中に乗っけて、
不自由どころか、自由にそこら中を動き回っている。つまり、
本質的な意味での自由とは、自由にみえる状態のことではなく、
自由に何ができるか、という行為のことを指すのだ。
*1

と紹介された鈴木敏男氏。そんな、彼が仕事を通じて感じてきたこと。
そして、誰よりも近い距離で長年見てきた、宮崎・高畑両氏やジブリの現場。


鈴木氏といえばアニメ誌『月刊アニメージュ』の創刊に携わった編集者の出身。
つまり、アニメーション制作の外の立場から転身したという結構、珍しい立場。
大きな転機となったのは、宮崎・高畑両氏との出会い、ナウシカの制作だろう。
ここで面白かった、高畑氏との出会いとケンカ腰の姿勢について。

「どうせあなたは原作のどこそこがよくて、ゆえにこの作品を作ろうと
思ったのとか、そういうくだらないことが聞きたいんでしょう」
*2

これはまさにケンカ腰。こうした姿勢への対抗意識がアニメに対する知識を
強化していったそうで。それが気がつくと、一線を越えて作品作りに参加して
いったんだから面白い。やはり、両氏でないと、今の仕事はしてなかったかも。


本書を通じて、意外にも高畑勲氏の拘りと頑固さというのが一番印象に残った。
自分も漠然とジブリ映画を見ていると、宮崎駿氏の映画は「ファンタジー」を
ベースにした空間を期待し、高畑氏は「リアリズム」の世界を要求していたりする。
鈴木氏から、そのリアリズムの徹底ぶりについて述べている。

高畑さんはリアリズムに徹底していて、『ハイジ』に出てくるパンですら、
全部本物を調べ抜いてやっています。高畑さんと宮さんとはここが違い
ます。宮さんのほうは「らしく」見せるのが得意で、『もののけ姫』のタタラ場
だって、それらしく描いていますが、ウソもけっこう入っている(笑)。
*3

本書では『おもひでぽろぽろ』の制作過程で紅花づくりの作業を研究したり、
ひょっこりひょうたん島』の劇中歌を探して、全国のマニアから情報を募ったり、
見ている人によってはそこまで凝視するかわからない部分にまで、徹底的な拘り
を見せていたことを紹介している。これは、まさにプロデューサー泣かせかも。


一方、宮崎氏の部分では『アニメはいかに夢を見るか』で押井アニメの制作現場を
石井朋彦氏*4とオーバーラップしつつ、現場での宮崎氏のエピソードが気になった。


スタッフとの交流の場として、押井氏は海外での長期ロケハンを挙げていたが、
宮崎氏の場合はスタジオでぐるぐる回りながら、気兼ねなくに触れ合ってること。
そこに発見もあるそうで『崖の上のポニョ』でスタッフの子供と遊びながら観察を
してきたそうで。そして、こうした出来事も映画にも使われているそうだ。


この他にも、ジブリの創設の話や徳間書店の社長のエピソードなども数多く。
自分も数知れずほどジブリ作品を見ていたが、裏側や制作の現場を読んだり、
見たりすることはなかった。今回の『ポニョ』で関連図書も何冊か出ている。
知っているようで知らなかったジブリの世界、もっと知りたくなった一冊。

*1:押井守『凡人として生きるということ』(幻冬舎文庫)P47より

*2:本書P24より

*3:本書P107より

*4:ちなみに、石井氏はジブリで鈴木プロデューサーの片腕として仕事をしていたそうだ。