■ 柔らかく、淡い、イメージの洪水が襲ってきた!
一昨年は『ゲド戦記』を劇場で見てガッカリな思いをしたが、今年は迷わず鑑賞を決意。
さらに『キネマ旬報』(8月上旬号)を読んで、『スカイ・クロラ』前に見ておこうと思った。
宮崎監督の新たな挑戦への期待と物語の放棄の可能性という不安をもって視聴した。
まず、作品を見終わっての感想として、作品全体に対する柔らかく、淡い印象が残った。
過去のジブリ作品を見た人なら、作品の質感におけるある種の変化に気づくはずだ。
それは、作品の背景画にある。ジブリ作品といえば、非常にディティールも細かい、
リアルな背景描写というのが特徴的であったといえる*1。それが今回は違った。
これまでのジブリアニメは、本物のように描く自然主義的な絵でやって
きましたけど、宮さん(宮崎監督)は絵本のようなデザインチックな絵で
背景を描けないかと思っていたんです。(少略)ジブリの歴史を考えると、
大きな挑戦だと思います。*2
この絵本のような「淡い」背景絵がソフトさを印象付けたせいか、リラックスしていた。
そうした背景もあってか、動きもまたすごく躍動的に見えた*3。。
次に、物語として見ていくとチグハグに感じる。流れが、パッチワークなのだ。
このチグハグさは、鈴木氏が語るところの宮崎監督の『物語』の放棄という姿勢
にあるようだ。どこか説明不足でツジツマの合わない展開ではあったが、ただし、
中だるみはなかった。それは、次から次にイメージの洪水が押し寄せてきたから。
飛び道具のように、大胆に場面や展開に変化をもたらす。用意周到さはないけど、
テンポのよさからは主人公の宗助くらいのお子さんの視点だと、見安そうと思った。
ジブリ作品はやはり「子供たちが見て何を思うのか」という部分が、ある時期からの
課題であり、近年の作品の中で忘れ去られていた部分だったと思う。だからこそ、
本作は、ある意味で『トトロ』のときに幼少の自分が感じた素直に「楽しかった」
という印象を残してくれたのは良かったと思う。何となく劇場から出てきたお子さん
方の表情もまた、生き生きしていたように見えた。何というか、押井作品のように
見終わってから「ああでもない、こうでもない」と首を傾げるのは似合わない(笑)
まぁ、深く突っ込みたがる視点は大切にしたいと思うが、本作においては少し
放棄してみようと思ってしまった。久々にジブリでストレートに「楽しかった」
という感覚を取り戻してくれたから。そして、この年齢になって、ここまでの
大胆さを持っている宮崎監督の創造力に驚かされた。やっぱこの人は天才です。